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2019年10月11日

セブンが1000店閉鎖・移転 小売業は歴史的転換点に

流通

 小売り大手セブン&アイ・ホールディングス(HD)は傘下のコンビニ最大手のセブン-イレブンの不採算店約1000店の閉鎖・移転などを柱とするグループの構造改革を発表しました。傘下の総合スーパー百貨店でも閉店や従業員の削減に踏み込みます。セブン-イレブンはコンビニだけでなく日本の小売業界の勝ち組ですが、そのセブン-イレブンが拡大路線から縮小路線に転換するという発表は歴史的な転換点といえます。日本の国内小売り市場は人口の減少で伸びが期待できなくなっています。それに加え、リアルな店舗を構える小売業の売り上げをネット通販が奪いつつあります。アメリカではすでにネット通販により既存の百貨店などが破産する事態に陥っており、「何ごともアメリカの10年遅れ」といわれる日本の小売り業界ですので、セブン-イレブンはそうした時代の流れを見据えた決断をしたものと考えられます。

(写真は、セブン-イレブンの看板=東京都)

コンビニより大きいネット通販の伸び

 日本の小売業の売上高を見ると、スーパーマーケット、百貨店、コンビニの3業種が長らくビッグスリーでした。ただ、百貨店業界は低落傾向で1991年には10兆円弱あった売り上げが今は6兆円弱になっています。スーパーも1997年の16.8兆円をピークに低下傾向にあります。伸びているのはコンビニで、今は11兆円程度になっています。ただ、ネット通販の伸びはもっと大きく、物販とサービスをあわせた市場規模は2018年に17.9兆円になっています。

海外の好調で業績は悪くない

 セブン&アイ・ホールディングスの2019年2月期決算は売上高も営業利益も過去最高を記録しました。2019年8月中間決算も純利益は過去最高で、業績は決して悪くありません。海外のコンビニ事業が好調で利益を押し上げています。ほかのコンビニ業界も同様で、海外の好調によって業績を維持している格好です。

(写真は、記者会見で事業構造改革について説明するセブン&アイHDの井阪隆一社長=2019年10月10日、東京都内)

増やすより閉じる方が得策

 ただ、国内市場が飽和してきたのは間違いありません。コンビニ業界は、1店舗あたりの売上高は落ちても、店舗数を増やすことで全体の売り上げを増やしてきました。たとえばセブン-イレブンでは地域ごとに大量出店を繰り返して約6万店にまで増えてきました。今年、最後の未出店地域である沖縄への出店を始めました。これで空白地域はなくなり、店舗数をさらに増やす余地は小さくなっています。しかも、人手不足が深刻で、さらに店舗数を増やすにはコスト面でもハードルは高くなっています。セブン&アイが約1000店の閉鎖や移転を決めたのは、無理して出店して売り上げを伸ばそうとする戦略はもうとれず、それより不採算店を閉じて採算をよくする方がこれからの戦略と見定めたものと考えられます。

(写真は、セブン-イレブン沖縄初出店のテープカット=2019年7月11日、那覇市)

日本はアメリカの10年遅れ

 日本よりネット通販の普及が進むアメリカでは、リアルな店舗は日本以上に苦戦しています。おもちゃ大手のトイザラスや百貨店大手のシアーズ破産しました。ネット通販は食品にも及んでいて、高級食品店「ディーン&デルーカ」が大量閉店したり、高級食品スーパーのホールフーズ・マーケットはアマゾン買収されたりしています。日本の小売業界は、スーパーにしても、ディスカウントストアにしても、コンビニにしても、アメリカで盛んになって10年くらい遅れて広まってきました。ネット通販によるリアル店舗の苦戦もそのうちアメリカ並みになることが予想されます。

(写真は、営業をやめたディーン&デルーカの本店=10月8日、米ニューヨーク市)

将来性のポイントは挑戦

 リアル店舗を展開する日本の小売業界が生き残る道はいくつか考えられます。ひとつは商品やサービス、販売方法などでほかの追随を許さない独自性を持つことです。もうひとつは海外展開を強化することです。海外にはまだ大きな需要があります。三つめはネット通販を強化することです。アマゾンのようなプラットフォーマーに負けない仕組みを作ることです。いずれも簡単なことではありませんが、月並みなリアル店舗でいつまでも勝ち残れるほど時代はのんびりしていません。新しいことに挑戦する意欲を持った企業であるかどうかが将来性を見るポイントだと思います。

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