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2019年05月08日

エンジニアリング「冬の時代」だが…地球規模の仕事が魅力!

機械・プラントエンジニアリング

 主に海外で石油や化学製品プラントを手がけるエンジニアリング業界が、苦しんでいます。受注した巨額の案件を契約する際、人件費などの経費の見通しを誤り、思わぬ費用負担が増えているのが原因です。エンジニアリング業界の大手3社のひとつである千代田化工建設は2019年3月期の赤字が2150億円になる見込みで、三菱商事が救済する方向になりました。ほかの2社も業績は芳しくなく、エンジニアリング業界は「冬の時代」に入っています。ただ、この業界は業績の山谷が大きいのが特徴で、「冬を越えれば春が来る」と楽観的に見る人もいます。仕事は地球規模であり、巨額の利益損失を出すことのあるスケールの大きなものです。海外生活が苦にならず、仕事に達成感を求める人には今も魅力のある業界ではないかと思います。

(写真は、米テキサス州で建設中のLNGプラント。事業に参画する千代田化工建設は、別のLNGプラントの工事費用が膨らんで大幅赤字となる見通しだ=米フリーポートLNG社提供)

日揮、千代化、東洋エンジが大手3社

 エンジニアリング業界の大手3社は、日揮、千代田化工、東洋エンジニアリング(売上高順)の3社です。この3社は、ほぼプラント建設専業で海外の仕事が中心です。他にも、三菱重工業IHI、三井E&Sホールディングスといった造船会社系や、日立製作所東芝といった原子力発電所建設が得意な会社なども業界の一員といえます。

アメリカの工事で損失発生

 最近のエンジニアリング業界の大きな損失は、アメリカでの仕事で発生しています。千代田化工はルイジアナ州メキシコ湾岸でシェールガス液化天然ガス(LNG)にするプラントを建設しています。2014年に約6000億円で受注した案件ですが、熟練労働者の不足や配管などの不具合のため、巨額の追加費用が発生しました。東洋エンジニアリングもルイジアナ州のエチレン製造プラントで600億円近い追加費用が発生し、2018年3月期に赤字に転落しました。日揮も2017年3月期にテキサス州のエチレンプラントで約300億円の追加費用が発生し、赤字に転落しました。IHIや三井E&Sホールディングスもアメリカで追加費用が発生した工事を抱えています。

一括請負契約にリスクあり

 アメリカでは、好景気に加えてシェールガスの採掘が急激に増えたことやトランプ政権の移民を制限する政策によって、プラント建設に携わる熟練労働者が人手不足になり、賃金上昇に拍車がかかっています。また、業界独特の事業モデルも大きな損失が出る原因になっています。業界では受注時に工事費を確定し、追加の費用が発生しても請求しない「一括請負契約」が定着しています。この方式の場合、作業を効率化させるなどすれば利益を大きくすることができますが、費用の見通しを誤れば、巨額損失につながるリスクがあります。実際、業界は1990年代末や2008年のリーマン・ショック後などにも大きな損失を出しています。日本勢としては契約方式を変えたいところですが、中国や韓国の企業との受注競争が激しく、踏み出せないのが実情です。

(写真は、米オクラホマ州のシェールガス採掘現場)

新方式の開発で盛り上がるか

 リスクはあっても、大型プラントの受注はやめられません。日揮は2018年、アメリカの会社と共同でカナダの液化天然ガスプラントを受注しました。日揮だけで約6300億円にもなる巨大プロジェクトです。見込み違いとならないよう工期や費用の管理を徹底しなければなりません。ただ、世界を見ると、中東、アジア、アフリカ、北米などで石油精製や液化天然ガスの生産設備の建設ニーズはまだまだありそうです。IT技術、人工知能ドローンなどを使った新しい建設方法を開発し、工期の短縮やコストの低減を実現すれば、業界はまた盛り上がる可能性があります。

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