埼玉県川越市の丸広百貨店川越本店の屋上にある遊園地が9月で閉鎖されることになりました。運営するバンダイナムコアミューズメントが調べたところ、大型動力遊具がそろって常時営業している「デパート屋上遊園地」は全国でここにしか残っていないそうです。就活生のみなさんの中にデパート屋上遊園地に懐かしさを覚える人は少ないと思います。みなさんが生きてきた平成の時代にはもうすたれつつありました。その前の昭和の時代には、デパートと言えば屋上遊園地がイメージされるほどの定番施設でした。そのころのデパートは中流の家族が休日にちょっとおめかしして出かけるところで、買い物だけでなく屋上遊園地で遊んだり大食堂で食事をしたりする家族レジャーのひとつでもありました。しかし、買い物もレジャーも多様化し、デパートのあり方が揺らいだのが平成でした。中流家族のデパート離れが進む中、デパートの客は富裕層と訪日外国人が中心になってきました。テナントへの場所貸しも進んでいます。このため、大都市部は好調ですが、地方や郊外はおおむね苦戦しています。デパートが再び中流層をとりこむことができればいいのですが、簡単ではなさそうです。
(写真は、閉鎖が決まった丸広百貨店川越本店屋上の遊園地。観覧車、エアプレーン、ミニモノレールが並ぶ=2019年4月21日、埼玉県川越市新富町2丁目)
場所貸しの数字を初めて発表
日本百貨店協会のまとめによると、百貨店の売り上げがピークだったのは、平成に入ってすぐでバブル末期の1991年。10兆円弱ありました。しかし、バブル崩壊とともに減り始め、2018年は5兆8870億円でした。値段が安かったり便利だったりするスーパー、コンビニ、ネット通販などに食われてきました。
ただ、協会は4月に2018年の百貨店の総取扱高が6兆5018億円だったと発表しました。総取扱高の発表は初めてです。百貨店の売り上げとの違いは、総取扱高にはテナントの売上高などが入っていることです。テナントなどの売り上げは4713億円で前年に比べて14.6%増でした。つまり、百貨店は自分の売り場の売り上げは落ちていますが、テナントに売り場を貸す場所貸しを進めていて、それも合わせるとほとんど減っていないことを示そうとしています。
富裕層や訪日外国人が中心に
今の百貨店の中心客は、富裕層と訪日外国人です。2018年の訪日外国人客の免税売り上げは前年に比べて25.8%増えて3396億円になり、過去最高を更新しました。商品別の売り上げで、よく売れているのは化粧品と美術・宝飾・貴金属です。訪日外国人や富裕層が買っている商品が伸びています。
(写真は、百貨店で買い物を終え免税の手続きをする訪日外国人ら=東京都豊島区の西武池袋本店)
地方から大都市中心部への逆の流れ
富裕層や訪日外国人が訪れるのは、大都市のデパートであることが多いため、大都市部の店舗には投資をしています。高島屋は2018年秋、日本橋店の隣接地に新館をつくり、一帯を「日本橋高島屋S.C.」として開業しました。三越伊勢丹ホールディングス(HD)も、日本橋三越で今後3年間、150億円をかけて改装を進めています。いずれも高級感やコンシェルジュサービスをアピールして、富裕層をさらに取り込もうとしています。一方で、三越伊勢丹HDは、相模原店、府中店、新潟三越の3店舗を閉鎖することにしています。百貨店の店舗戦略は、昭和から平成にかけては都市から地方や郊外に展開する流れでしたが、今は地方を閉め大都市中心部に力を入れており、当時とは逆の流れになっています。
(写真は、日本橋高島屋S.C.新館の外観。本館《右側》の百貨店とは連絡通路でつながっている=東京都中央区)
屋上遊園地に匹敵する特色を
百貨店の苦境は平成を通じて言われてきましたが、まだまだブランド力はあり、就活人気もあります。展覧会などの文化に力を入れたり、快適な売り場づくりやコト消費に取り組んだり、価格競争から離れた小売りとして魅力を感じる人は少なくありません。昭和の屋上遊園地に匹敵するような百貨店の新しい特色をこれから出すことができれば、令和の時代も隆々と生きていられると思います。