みずほ銀行は、中小企業の信用力を人工知能(AI)で審査して貸し出す新サービスを始めた、と発表しました。これまでの銀行員による審査に比べて、決算書の提出がいらなくなるなど手続きが簡単になり、融資までにかかる時間も大幅に短くなります。まだ対象が中小企業だけで、融資の金額も1000万円までと上限がありますが、対象も金額も今後広がっていくものと思われます。融資は銀行の大事な業務のひとつです。その業務が人間からAIにとって代わられる流れの一歩になるでしょう。ただ、そうなると融資は数字だけが基準になり、経営者の人物や社会のニーズなどは顧みられなくなります。ドラマの「半沢直樹」のような銀行員は必要なくなり、銀行の人減らしにつながります。銀行融資にAIが活用されるのは止められない流れでしょうが、AIにどこまでまかせるのかは、これからの大きな課題になると思います。
(写真は、みずほ銀行のATM)
最短2日間で融資が実現
みずほのAI融資は、同行に法人口座を持つ売上高が10億円未満の小規模な事業者が対象です。手続きはインターネットででき、申し込みから最短2日間で融資が実現します。AIは信用力に応じた口座の資金の動きを学習していて、対象企業の口座の資金の動きなどから融資の貸し倒れの確率をはじき出します。その上で融資するかどうかや金利をいくらにするかを素早く判断します。みずほは80万社の法人口座を抱えていますが、実際に融資しているのは1割程度です。AI融資で小規模事業者の資金ニーズを掘り起こしたいとしています。
(写真は、新サービスの画面を表示させながら説明するみずほ銀行の担当者=2019年4月16日)
三菱UFJや地銀も準備
AIを使った融資は大手行では初めてですが、異業種でAI融資をしているところはあります。アマゾン・ドット・コムは日本で出品業者に融資をしており、リクルートも旅行予約サイトに登録する宿泊予約業者に融資、オリックスの子会社は自社の会計ソフト利用者に融資をしています。しかし、いずれも融資先が限定されています。幅広い企業を対象にするみずほの参入は、本格的なAI融資の始まりを告げるものと言えます。三菱UFJ銀行や一部の地銀も準備を進めています。また、アメリカや中国では、法人や個人の信用度をAIではかる動きが日本より進んでいます。
AIに仕事を奪われる先駆け
AI融資はいいことばかりとはいえません。ひとつは、銀行員の仕事が減ることです。みずほフィナンシャルグループは2026年までに1万9000人を、三菱UFJフィナンシャルグループは2023年度までに6000人を減らす計画を立てています。三井住友フィナンシャルグループは2020年春までに4000人分の業務量を削減することにしています。こうした人員削減は、AI融資などのフィンテック(金融とITの組み合わせ)が進むことが前提になっています。人間の仕事がAIに奪われるという未来社会の先駆けと受け止められています。
もうひとつの不安は、AIの判断が本当に正しいのか、ということです。あるいは銀行の経営にとっては正しくても社会にとってはよくないこともあるのではないか、ということです。「銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日にとりあげる」という言葉は有名で、テレビドラマ「半沢直樹」でも銀行のあり方に批判的な意味で使われていました。社会にとって必要な企業が融資を受けられないために消えていくことはよくあります。よき銀行員は経営者の志や能力、社会の声なども判断材料に加えて融資してきました。社会になくてはならない企業の経営者から「あのとき銀行が貸してくれなかったら今はなかった」と振り返る声を聞いたことのある人は少なくないでしょう。今年2月、IT企業や有識者で作る「パーソナルデータ+α研究会」は、融資の判断などでAIを使う時の指針案をまとめました。案では、評価を下す過程でAIに完全に判断をゆだねるのではなく、人の関与を検討するよう求めています。フィンテックが進む銀行業界ですが、「どこまでAIにゆだね、どこまで人間が関わるのか」はこれからの大きな課題だと思います。銀行の採用数や職種に関わってくる課題ですので、就活生にとっても無縁ではありません。