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2018年10月31日

世界的再編の中で生き残りかける鉄道車両メーカー

機械・プラントエンジニアリング

 世界をみれば鉄道事業はこれから有望な産業です。環境に優しく、1度に大量に運べるという点が評価され、発展途上国を中心に鉄道建設計画がたくさん出てきています。鉄道の車両を造ったり運行システムを構築したりする鉄道車両メーカーの経営には追い風ですが、一方で競争は激しくなっています。世界では大企業の経営統合が相次ぎ、巨大メーカーの戦いになっています。日本メーカーも技術力を売りにして世界で戦っていますが、巨大メーカーは技術力だけでなくコストの安さも身につけて、日本メーカーのライバルになっています。日本2位のメーカーである川崎重工業は2018年4~9月期の連結決算で鉄道車両事業部門が165億円の損失を計上しました。アメリカでの技術的トラブルが主な原因で、川重の金花芳則社長は「再建不可能であれば、分社や他社との提携、事業撤退などあらゆる可能性を検討する」と述べました。日本メーカーは、技術力をさらに磨かなければ生き残りが難しい状況になっています。

(写真は、川崎重工業が受注したニューヨーク市営地下鉄新型車両「R211」の模型=ニューヨーク市交通局提供)

日立が4位で川重は10位

 現在、世界最大の鉄道車両メーカーは中国中車(中国)です。2015年に中国南車と中国北車が経営統合して誕生しました。年間売上高は約3.8兆円にもなります。さらに今年末には世界2位のシーメンス(ドイツ)と3位のアルストム(フランス)が経営統合して「シーメンス・アルストム」が誕生します。売上高は約2兆円になる見込みです。この2社に続く3位になるのが、ボンバルディア(カナダ)で、4位が日立製作所(日本)です。日立の鉄道事業の売上高は約6000億円ですので、巨大な2社に大きく引き離されています。日本で2位の川重は世界では10位で、売上高は1000億円規模ですので、さらに大きく引き離されていることになります。

(写真は、世界最大の鉄道見本市「イノトランス」で展示された4大車両メーカーの新型車両。左上から時計回りに中国中車、シーメンス、ボンバルディア、アルストム=2018年9月、ベルリン)

技術力には定評があった日本メーカー

 日本の鉄道の技術は定評がありました。20世紀後半には、世界の指導者が来日すると新幹線に乗り、そのスピード、乗り心地、正確さなどに感嘆していました。こうした評価により、台湾の高速鉄道は日本の新幹線技術を輸出する形で完成しました。その後も世界の鉄道計画や新車両導入計画があれば、日本メーカーも積極的に入札に参加し、いくつかの事業を担いました。しかし、技術力の優位性は徐々になくなってきました。また、中国中車などの新興国メーカーはコストの安さを売りにして、途上国の計画などに参入するようになりました。

(写真は、東海道新幹線に乗り込むゴルバチョフ・ソ連大統領夫妻=1991年4月)

日立は売り上げ1兆円を目標に

 世界で主に戦っている日本メーカーは日立と川重の2社で、日立はイタリア企業から車両・信号事業を買収するなどM&Aに積極的で、2020年代前半までに売上高を現在の約6000億円から1兆円にする目標を掲げています。一方、川重は金花社長をトップにする再建委員会を設置し、今年度いっぱいで再建策を練ることにしています。しかし、世界10位という規模は中途半端で、前向きな再建策が出るかどうかは分からない状況です。

(写真は、「イノトランス」で展示された日立製作所の2階建て新型車両)

国内市場中心のメーカーは安定

 日本の車両メーカーには、国内中心にやっているメーカーもたくさんあります。日本車両製造、近畿車両、総合車両製作所、東急車両製造などです。それぞれ鉄道会社との結びつきが強く、経営は比較的安定しています。ただ、国内では新しい鉄道が建設されたりすることはほとんどなく、鉄道車両の数はほぼ飽和状態ですので、これからの大きな伸びは期待できません。日本メーカーは主に国内市場を相手に安定した経営をするメーカーと、これから伸びる世界市場を狙って激しい競争の世界に挑むメーカーとに分かれます。鉄道ファンでなくても鉄道車両づくりに魅力を感じる人はたくさんいると思いますが、目指す方向性の違いや世界の競争環境の変化などを知ったうえで志望するようにしましょう。

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