日本政府は、韓国が自国の造船企業に国際ルールに違反する過剰な公的支援を行っているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴する方針を固めました。特定の企業に国が補助金などを与えると競争が不公平になるためです。造船業界は、中国、韓国、日本が激しく競争しています。今は建造能力に比べて実際の建造量が少なく、安値受注が横行するなどしています。日本の造船業界にとっては、やや苦しい時期にきており、提訴の方針もこうした状況が背景にあります。ただ、海上の荷動きが活発になると、新造船の発注が急増するのがこの業界です。日本の造船業界は、定評のある高性能・高品質の船で韓国や中国に対抗する構えです。
(写真は、11月に閉鎖されるIHI愛知工場。かつては「日本3大ドック」の一つに数えられた)
日本の補助金も問題になったことが
造船業界の補助金は以前から問題になってきました。20世紀後半には、日本の造船業界が政府からの低利融資という形で実質補助金を受けていると海外から問題にされたことがあります。補助金は最近の中国にもあり、提訴には至っていませんが、問題になっています。背景には、実際の発注量より建造能力が大きい慢性的な供給能力過剰問題があります。昨年のG20ハンブルク・サミットでは「(造船業の)補助金その他の支援措置の撤廃を緊急に求める」という首脳宣言が採択されました。
(写真は、G20サミットで記念撮影する中国の習近平国家主席〈中央〉ら=代表撮影)
建造量は中国、韓国、日本の順
世界の船舶建造量をみると、中国、韓国、日本の3国が8割程度のシェアを持っています。かつて日本が圧倒的1位だった時期もありますが、20世紀終盤には韓国に追いつかれ、さらにその後中国にも追い越されました。今は、おおむね中国、韓国、日本の順番ですが、発注が増えて船価が高くなる時期には、日本が多くの注文を受ける傾向があります。2015年はそうした時期で、この年は日本が韓国を抜いて2位になりました。今は再び船価が低迷しており、日本は3位が定着しています。
(写真は、破産した中国の造船工場。韓国造船大手の現地法人だった=2015年、大連市郊外)
大手が落ち専業メーカーが伸びる
日本の造船メーカーといえば、かつては三菱重工業、IHI、川崎重工業、日立造船、三井造船、住友重機械工業などの大手企業が建造量上位を占めていました。しかし、相対的に安い値段で大量建造する今治造船などの専業メーカーが伸び、2016年の建造量を見ると、今治造船、ジャパンマリンユナイテッド(JMU=IHI、日立造船、日本鋼管、住友重機が経営統合)、大島造船所、名村造船所、新来島どっく、三井造船、三菱重工、サノヤス造船、常石造船、住友重機、川崎重工の順になっています。世界で見ると、韓国の現代重工業がトップで3位までを韓国メーカーが占め、4位に今治造船が入っています。
(写真は、2017年に完成した今治造船の新ドック=朝日新聞社ヘリから)
働いている人は約8万人
日本の造船所は瀬戸内と九州に多く集まっています。かつては東京湾岸や伊勢湾岸などにもたくさんありましたが、かなり減りました。造船業に従事している人は約8万人で最近は横ばいになっています。少し前まで従業員の高齢化が問題になっていましたが、新陳代謝が進み、今は20~30代や女性が増えています。ただ、溶接分野などでの人手不足は深刻で、2000人以上の外国人労働者が働いています。
(写真は、広島県尾道市の造船所で溶接技術を学ぶ外国人技能実習生たち)
浮き沈みの激しい業界
造船業界の特徴は、好不況の波が激しいことです。世界景気が良くなり海上の荷動きが多くなると、船が足りないということで発注が大量にあります。しかし、船が完成するころには景気が悪くなっていて、当分発注が激減します。業界は長い間、これを繰り返してきました。発注が激減する期間が長く、造船所を閉鎖したり社員をリストラしたりする動きが目立ちますので、日本ではすっかり構造不況業種のイメージになってしまいました。しかし、大量発注が来る時期も必ずあり、好況に沸くこともあります。ただ、こうした浮き沈みの激しさは経営が望むところではありません。そのため、大手は比較的受注が安定している自衛隊の艦船、付加価値の大きいガス船や客船、石油掘削船など様々な海上構造物などにも力を入れています。
(写真は、鳥取県境港市に寄港した大型客船)
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