バス、鉄道、タクシーといった公共交通に宅配便を載せて運ぶ「貨客混載」が地方で広がっています。人手不足で配送を効率化したい運送業界と乗客不足で少しでも収入を増やしたい交通機関の利害が一致したため起こっている動きです。国土交通省が昨年9月に、運輸事業者が旅客と貨物をかけもちすることができるように規制を緩和したことも後押ししています。政府は今国会で出入国管理法(入管法)を改正して単純労働の外国人を受け入れようとしていますが、運送業は対象業種に含まれないとみられており、人手不足は当分解消しそうにありません。人を運ぶ交通機関との連携によって配送の効率化を図る動きはまだまだ広がりそうです。
(写真は、岐阜県山県市でヤマト運輸の荷物を受け取る乗り合いタクシーの運転手)
北海道や岐阜県ではタクシーで混載
岐阜県山県市では、11月12日に客を乗せた乗り合いタクシーがヤマト運輸の荷物を載せて運ぶ貨客混載の実証実験を始めました。貨客混載は、バス会社が運送会社と提携して北海道、岩手県、宮崎県、愛知県、秋田県、長野県、広島県などで、鉄道会社は北海道、新潟県、京都府、和歌山県などで始めています。タクシーの貨客混載はまだ多くはありませんが、北海道旭川市のタクシー会社が佐川急便と提携して始めているなど、徐々に増えています。
(写真は、新潟県の六日町駅で、北越急行ほくほく線の客車に固定される佐川急便の専用台車)
配達先の多いエリアだけクルマで
地方は過疎化が進んでいて、営業所から出る配送車は長い距離を配って回らないといけません。大きな町村を結ぶ長い距離を運転だけで何往復もする場合もあります。こうした長い距離をバス、鉄道、タクシーで運んでもらい、運送会社のドライバーは配達先の多いエリアだけを動けば効率がよくなり、人手は少なくてすみます。一方、バス会社や鉄道会社はその公共性から赤字でも路線を維持する必要があり、少しでも収入を上げようとしており、貨物を運ぶことは空いているスペースの有効活用になり、収入増にもつながります。また、トラックの走行距離が減ることは環境にもプラスになります。
(写真は、北海道北見バスの専用シートに宅配貨物を積み込むヤマト運輸のドライバー)
きめ細かい対応が難しい
課題としては、宅配便の顧客の時間指定や再配達にきめ細かく対応するのが難しい点が挙げられます。バス、鉄道、乗り合いタクシーは運行時間が決まっていて、地方では本数もまばらです。貨客混載により配達時間がこれまでより遅くなるケースも考えられます。
外国人労働者では解決せず
運送業の人手不足は深刻です。ネット通販などの成長で宅配便の個数が増え、ドライバーが足りません。同じように人手不足が深刻な建設業などは、出入国管理法改正で外国から単純労働者を受け入れようとしていますが、配送業のドライバーは運転免許が必要だったり日本語ができないといけなかったりしますので、外国人に頼るわけにはいきません。結局、抜本的な対策は当面なく、都市部では宅配便ロッカーの設置などで再配達を減らす取り組みに力を入れ、地方では貨客混載によりドライバーの負担軽減に取り組んでいます。2020年代には高速道路で無人運転が始まると予想されており、そこまではこうした取り組みで人手不足に対応していくしかなさそうです。
(写真は、京都府の丹後鉄道久美浜駅に持ち込まれたトマトやレタスなどの農産物)
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