電気自動車(EV)シフトが起こっている自動車業界で死命を制すると考えられているのが電池です。環境に優しいとか自動運転に適しているとかの理由から、世界はガソリン車から電気自動車への移行を進めています。必要になるのは高性能の電池です。今のリチウムイオン電池の生産は急激に伸びていますが、さらに高性能の電池を開発すれば電気自動車の普及スピードがさらに速まると見られています。電池分野ではかつて日本企業が世界で最も競争力があるとされていましたが、今は中国、韓国勢に抜かれてしまった感があります。パナソニックだけが世界のトップ争いに加わっていますが、勢いは中国勢にあります。ただ、次世代電池の開発で先んじれば、業界地図はあっという間に塗り変わる可能性があります。これからどこまで大きくなるかわからない業界ですし、従来の電池メーカーだけでなく自動車メーカー、部品メーカー、電機メーカー、ベンチャー、さらに外資などが参入して開発競争を繰り広げています。どこが勝ち残るかわからない状況ですが、活気あふれる業界ですので、おもしろい仕事ができるのではないでしょうか。
(写真は、中国製の電気自動車「es8」)
政府の後押しを受けて中国企業が躍進
電池には様々な用途があり、種類も様々ありますが、今、注目されているのは自動車に載せる電池です。現在はほとんどがリチウムイオン電池で、中国の調査会社の調べでは、2017年の出荷量は中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が世界トップで12ギガワット時でした。2位が日本のパナソニックで10ギガワット時でした。3位以下のベストテンを見ると、6社が中国企業、2社が韓国企業となっています。CATLは設立から7年の新興企業ですが、EVシフトを進める中国政府の後押しを受けて世界一に躍り出ました。
パナソニックは巻き返しに懸命
CATLとトップを争うパナソニックは、反撃に出ています。昨年には、アメリカのEVメーカーのテスラと共同でアメリカに大規模な電池工場を立ち上げました。また、電池の生産、開発でトヨタ自動車との連携を強化することも発表しました。今春には中国・大連で大規模工場を稼働させました。2019年3月期には営業利益に占める自動車関連部門の比率が3割超となり、家電部門を上回って稼ぎ頭となる見通しです。7000億円に上る投資額もほとんどが自動車関連となります。
全固体電池がまもなく実用化
ただ、現在のリチウムイオン電池は量産の勝負になっていて、中国勢を逆転できる可能性は大きくありません。そこで日本勢が力を入れているのが、次世代の全固体電池の実用化です。全固体電池はリチウムイオン電池に比べ、より安全で長時間使えます。充電時間も短くなります。しかも、基本になる固体電解質は東京工業大学とトヨタ自動車が共同で開発しており、日本が世界をリードしています。研究はトヨタやパナソニックだけでなく、様々な企業が行っています。村田製作所、TDK、日本特殊陶業などの日本勢のほか、ドイツのボッシュやイギリスのダイソンも力を入れています。2020年代に入ると実用化されそうです。
(写真は、東京工業大学の研究チームが試作した全固体電池)
仕事はグローバルに広がる
EV用電池の開発、生産は国境なき戦いです。CATLは中国だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、日本にも開発拠点を置いています。日産自動車やホンダはCATLの電池を採用しています。日本メーカーが視野に入れているのも地球全体で、開発、生産も国内で完結するわけではありません。電池需要はこれから飛躍的に増えるとみられていますので、仕事は一段とグローバルに広がっていくと思われます。市場は世界で、ライバル企業も世界全体に存在します。自動車メーカー自体もグローバルに展開していますが、世界の自動車メーカーすべてが需要者である電池メーカーはもっと世界を視野にいれなければなりません。日本国内にこだわる人には向いていないと思いますが、世界を舞台に動きの激しい分野に携わる仕事を面白がれる人にはいいと思います。
(写真は、福建省寧徳市にあるCATLの本社施設)