業界研究ニュース 略歴

2021年06月04日

3メガ銀、好決算でも危機感 「安定」から「活力」の業界へ【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 三菱UFGフィナンシャル・グループ三井住友フィナンシャルグループみずほフィナンシャルグループの3メガ銀行グループの2021年3月期決算は、最終的なもうけを示す純利益が3グループ合計で前年より4.8%増えて1兆7608億円となりました。コロナ禍資金繰りを心配した企業が手元に多めの資金を持っておこうとして融資が増えたことや、株高によって資金運用が好調だったことが追い風になりました。金融の世界では、インターネットや人工知能(AI)を使うフィンテック事業者が台頭しています。こうした時代の変化によってメガバンクの実店舗によるビジネスモデルは曲がり角を迎えています。メガバンクは危機感を持ち、コロナ禍前に大規模な人員削減を柱とするリストラ策を打ち出していました。今の業績は決して悪くありませんが、危機が去ったわけではありません。メガバンクは、今後強まるとみられる向かい風を乗り切るための構造改革を引き続き進めるものとみられます。

(写真は、3メガバンクの看板=東京都内)

貸倒引当金を大幅に積み増す

 3メガバンクで連結純利益の最も大きかったのは三菱UFJで、7770億円と前期比47%増でした。三井住友が2番目で5128億円ですが、こちらは前期比27%減でした。みずほは4710億円で5%増でした。2022年3月期は、3グループとも前期比増を見込んでいます。一見順調な決算に見えますが、融資を回収できない場合に備えて積む貸し倒れ引当金などの与信費用を大幅に増やしているのが目立ちます。三菱UFJと三井住友は前年のほぼ2倍、みずほも前年より2割増やしています。こうした与信費用は3行あわせて1兆円を超えました。売り上げが減った中小企業に実質無利子、無担保で民間金融機関が融資する仕組みを政府が創設したことで、貸し倒れリスクの大きい融資が増えることになっています。こうした融資は先々の重荷になる可能性があります。

リアルな店舗や人員が重荷に

 メガバンクはいずれも人員や店舗の削減にかじを切っています。みずほは、2027年3月末までに1万9000人の人員を減らし、2025年3月末までに130店を減らす計画を立てて実行中です。三菱UFJは2024年3月までに1万人相当の業務量を減らし、店舗数を180減らす計画を実行中です。三井住友も人員や店舗を減らす方向で動いています。金融の世界でもインターネットの利用が進んでいるため、リアルな店舗や人員が重荷になっているのです。キャッシュレスでの決済が年々増えているので、実店舗を訪れる人やATMを利用する人は減っています。また、情報技術を駆使した金融サービスを提供するフィンテック企業が台頭していて、既存の金融機関を脅かしています。さらに、世界では中央銀行デジタル通貨を開発する動きが出ています。中国では、すでに一部地域でデジタル人民元の実験をしています。中央銀行がデジタル通貨を発行するようになると、国民が中央銀行に口座を持つことが可能になり、民間銀行の役割が失われていくことが考えられます。こうした情報技術の進歩に民間銀行は危機意識を強めているわけです。

一般職をなくし総合職に一本化

 構造改革にともない、人事制度も変わってきています。大きいのは一般職がなくなる方向にあることです。多くの銀行の人事制度には、総合職と一般職という区分けがありました。3メガバンクもそうでした。総合職は営業職にも配属され、遠隔地への転勤はあるが給与は高く昇進も早いというもので、一般職は伝票作成などの事務作業を担い、遠隔地への転勤はない職種です。三井住友とみずほはこの区別をなくし、総合職に一本化しようとしています。デジタル化により事務作業が減ったことや女性の活躍を期待することなどから区別する理由が薄らいだことによります。三菱UFJには一般職がまだありますが、採用人数は減らしています。

安定を求める時代は終わる

 銀行は20世紀後半のバブル経済とその崩壊により、大きな打撃を受けました。バブル崩壊前、広域に展開していた都市銀行は13行ありましたが、合併、統合でメガバンク3行と、りそな銀行に集約されました。このほか地方にはそれぞれ地方銀行がありますが、地方経済の疲弊や利ザヤの縮小などで経営環境が悪くなり、最近になって合併や統合が進んでいます。金融は人間の身体では血管にたとえられます。人が生きていくうえで血が巡ることが欠かせないように、社会にはお金が回ることが欠かせないのです。銀行はバブル崩壊で一時的な打撃を受けて再編が進んだとはいえ、なくてはならない業界として、危機を乗り越えた後は再び安定した存在になりました。ただ、状況は変わりつつあります。金融の役割が今後も必要なことには変わりありませんが、既存の銀行だけがその役割を担う時代ではなくなってきています。10年後、20年後の金融業界の姿は大きく変わっている可能性が高いと思います。今は新しい技術を取り込み、新しい業態に適応していく力がバンカーに求められます。そうしたバイタリティーのある人に向いている業界に変わりつつあるという認識を持つべきだと思います。

◆人気企業に勤める女性社員のインタビューなど、「なりたい自分」になるための情報満載。私らしさを探す就活サイト「Will活」はこちらから。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別