コロナ禍が追い風になっている業界はいろいろありますが、海運業界もそのひとつです。コロナ禍で世界の人々は旅行などの「コト消費」から物質を求める「モノ消費」に動き、コロナ禍から立ち直りつつある地域ではモノの輸出入が急速に増えています。それに加えてコロナ禍による労働者の感染対策などで港での積み下ろし作業がはかどらず、積み荷を入れるコンテナが滞留することによるコンテナ不足が深刻になっています。こうした状況によって船の運賃が世界的に上がっていて、海運業界の利益が膨らんでいます。海運業界は世界経済の動きに敏感で、好不況の波が大きいのが特徴です。日本は海に囲まれた島国で、輸出入の99%以上(重量ベース)を海運が担っています。海運会社には長い伝統のある会社も多く、好不況を何度も経験しながら合併や統合を繰り返して今に至っています。今が好況でもそのうち不況に入ることは想定できますが、世界の貿易量はまだ増えるでしょうから、長い目で見ると海運業界は成長産業と考えられます。
(写真は、横浜港に着岸した世界最大級のコンテナ船=2021年3月14日、横浜市中区)
外航海運は3社体制に
海運業界には、外航海運と内航海運の区分があります。外航海運は国際的な航路を主力としている会社で、内航海運は国内の航路を主力としている会社です。外航海運は20世紀後半に集約が進み、今は日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社体制になっています。ほかにもNSユナイテッド海運や飯野海運などがありますが、規模がぐっと小さくなりますので、外航海運会社としては大手の3社を指すことが多くなっています。内航海運は1000社を超える会社がありますが、中小企業がほとんどです。
(写真は、埠頭に積まれたコンテナ=2021年5月4日、東京都江東区)
コンテナ船が一転して利益に貢献
日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社の2021年3月期決算は。純利益がそれぞれ前年の4.5倍、2.8倍、20.6倍になりました。利益が膨らんだ要因は、コンテナ不足による運賃上昇です。船にはコンテナ船のほか、タンカー、ばら積み船、自動車船、LNG船などがありますが、日本の海運会社の場合は売上高の3~5割がコンテナ船によるものです。3社は2017年にコンテナ船事業を統合し、それぞれが大株主となる「オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)」を設立しました。当時は好況時に造られた船が余り、運賃水準が暴落して採算割れしていました。そこで統合して無駄をそぎ落とした会社を作ろうとしたのです。最近は一転して運賃が高騰し、今回の決算ではこの会社が前年の30倍超の利益を稼ぎ出し、投資収益として3社の決算に貢献しました。
造船のタイムラグで好不況
今回の海運業界の好況はコロナ禍による特殊要因がありますが、海運業界に好不況の波があるのは構造的な要因です。海運業界は運賃が高騰すれば、船が足りないとして造船会社に船を発注します。船が完成するのは早くても2~3年先、船が大型だったり発注が殺到したりすればもっと先になることもあります。船が完成したころには運賃が下がり始め、完成ラッシュとなれば下げ足が早くなります。こうして不況になります。ただ、不況が長引くと船が足りなくなりはじめ、再び運賃が上がり、船を発注するということが繰り返されます。船がほしいときと完成するときとのタイムラグに様々な要因による世界経済の浮き沈みがからみ、海運業界は大きな好不況を繰り返すのです。
(写真は、東京都内の港で荷物を積み下ろしするコンテナ船=2021年5月4日、東京都)
日本郵船は三菱グループの源流
外航海運の3社はいずれも歴史の古い会社です。日本郵船は1885年(明治18年)に郵便汽船三菱と共同運輸が合併して誕生しました。郵便汽船三菱はもともと三菱財閥の祖である岩崎弥太郎(写真)が明治初めに作った九十九商会が源流となっています。日本郵船は三菱グループの源流の会社といえます。商船三井は1884年(明治17年)に設立された大阪商船がもとになっています。川崎汽船は第1次世界大戦終戦直後の1919年(大正8年)に設立されています。持っている船の数は、日本郵船が826隻、商船三井が742隻、川崎汽船が442隻などとなっています。歴史の古い会社のいい点は、資産をたくさん持っていることや社風が落ち着いていることが挙げられます。よくない点は時代の変化に遅れがちなところが挙げられます。
海外駐在の機会は多い
外航海運会社は、仕事の性質上たくさんの海外拠点を持っています。3社とも数十カ国に数百の拠点があります。船員の多くは外国人なので船に乗って仕事をすることは少ないのですが、海外に駐在する機会は多くなります。志望する人はグローバルに活躍する意欲を持っている必要があります。外国語、特に英語ができたほうがいいのは当然です。外航海運業界は、運輸業界の中でも航空業界や鉄道業界に比べると就職人気は高くありませんが、国際性や歴史の古さを前向きにとらえる人は検討してみてはどうでしょうか。
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