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2021年05月07日

フードデリバリー業界、巣ごもりで急成長 参入相次ぐ【業界研究ニュース】

食品・飲料

 ウーバーイーツや出前館などのフードデリバリー業界が急成長しています。飲食店の出前サービスは昔からありましたが、マッチングアプリの発達により出前サービスだけを大規模に展開する業態が成立するようになりました。さらにコロナ禍の巣ごもり需要が強い追い風になっています。市場が成長すれば、参入する企業も増えます。日本勢だけでなくアメリカ、中国、ドイツ、フィンランドなどの外資系企業が昨年来、日本市場に参入しています。市場の成長の余地はまだ大きいとみられていて、競争の激しさが増しています。一方で、配達員の労働条件が整備されていないことや交通ルールが守られていないことなどの問題も発生しています。今年3月には日本フードデリバリーサービス協会という業界団体が設立されました。各社は市場の陣取り合戦を繰り広げながら、問題の解決もはかろうとしています。

(写真は、京都府内でサービスを始めたDiDiフードの配達員と、DiDiフードジャパンの井上貴之営業本部長=2021年4月22日、京都市下京区)

コロナ禍で50%の伸び

 アメリカの市場調査会社NPDグループによると、日本のフードデリバリーサービスの2020年の市場規模は6264億円で、前年に比べて50%もの増加です。これまでも毎年数%ずつ伸びていましたが、ここにきて一気に増えたのはコロナ禍の巣ごもり需要によるものとみられています。2020年のレストラン業態の売り上げに占める出前の比率は6.5%で、前年の3.1%から大きく伸びています。世界も同じような傾向を示しています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、世界の2019年の市場規模は2014年の2.1倍になっています。2019年にもっとも市場が大きかったのは中国で日本の約10倍。次いでアメリカで日本の約6.5倍、イギリスは日本の約1.5倍です。世界との比較から日本の市場はまだまだ成長する余地があるとみられています。

(写真は、都心にある出前館の配達拠点。小回りのきく自転車やバイクで飲食店と住宅などを回る=2020年3月、東京都中央区)

外国系も続々

 日本フードデリバリーサービス協会に加入している企業は13社あります。2016年に日本市場に参入したアメリカ系のウーバーイーツと、設立して20年以上になる日本の出前館の2社が大規模に展開しています。このほか、宅配ずしの銀のさらなどのブランドで展開するライドオンエクスプレス、出前と宅配の楽天デリバリー、法人向けに特化している日本フードデリバリーなどのほか、チョンピー(会社名はシン)、menu、エニキャリ、スターフェスティバルといった日本企業が入っています。また、ウーバーイーツ以外にも、フィンランド系のウォルト、ドイツ系のフードパンダ(会社名はデリバリーヒーロー)、中国系のDiDiフードといった外資系企業が加入しています。

(写真は、ウーバーイーツの配達員=2020年4月、東京都内)

市場は成長するが、利益は増えず

 市場の急成長は、企業の利益の急成長とイコールではありません。たとえば、出前館の2020年9月~21年2月期の連結決算を見ると、売上高は前年同期の2.7倍の104億円だったのですが、最終損益は96億円の赤字でした。テレビコマーシャルを強化するなどして経費が膨らんだためです。今は赤字を出してもシェアを確保する時期という考えのようです。各社とも知名度アップや加盟店と配達員の確保に経費がかかっており、「利益なき繁忙」といった状況のようです。

(写真は、ウォルトの配達パートナー)=WoltJapan提供)

労働環境と交通事故が問題

 業界の急成長にともなって、問題が浮上しています。ひとつは配達員の労働環境です。配達員との関係では、ウーバーイーツのように雇用契約を結ばず個人事業主とする企業と、アルバイトなどとして雇用契約を結ぶ企業があります。個人事業主とした場合、働き方の自由度は増しますが、配達中にケガをしても労災が適用されなかったり、報酬が不安定だったりします。海外では配達員に最低報酬を設けたり、会社と団体交渉できたりする企業もあり、日本でも今後改善していく必要がありそうです。また、配達員の交通事故や交通ルール違反が目立っています。こちらも業界として改善しないといけない問題です。

業界が落ち着くには数年かかる

 フードデリバリーサービス業界は今、日系、外国系入り乱れての戦国時代を迎えています。これから数年を経て勝ち残っていく企業、淘汰される企業が見えてきて、問題解決のめども立ち、業界は落ち着てくるはずです。今は働く人にとってスリリングですが、やりがいも大きい時期だと考えられます。

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