ネット通販サイトの売り上げが年々伸びています。中でもアマゾンの伸びが大きく、楽天、Zホールディングス(ZHD、旧ヤフー)が懸命に追っている構図です。アマゾンの強みは、アマゾンジャパンが自ら販売する直販方式が多く、巨大な物流システムを使って送料を無料としている点です。一方、楽天は直販が少なく、出店者が送料を別に求める仕組みをとってきました。この送料の有無が弱点とみた楽天は、税込み3980円以上の購入で送料無料とする方針を決め、出店者に伝えました。しかし、出店者にすれば、送料込みの売値とする場合、競争上は実質値下げをすることになりかねず、反発の声が出ています。また、「優越的地位の乱用」として公正取引委員会も問題視しています。しかし、楽天は送料無料を「送料込み」と言い換えて貫く構えで、なんとしてもアマゾンと同じ土俵にのって追撃しようとしています。ネット通販は、今後「アマゾン一強」になっていくのか、楽天とZHDが巻き返すのか、分岐点のつばぜりあいが始まっています。
(写真は、楽天の三木谷浩史会長兼社長=2020年2月13日、東京都世田谷区の楽天本社)
伸び率はアマゾンが大きい
国内のネット通販事業は約18兆円規模(2018年)で、2010年の2.3倍に拡大しています。ネット通販のプラットフォーマーとしては、アマゾン、楽天、ZHDが3強です。売上高などの発表形式が異なるため単純には比べられないのですが、利用者数はアマゾン、楽天、ZHDの順番と推定されています。ここ数年の売上高の伸び率は、アマゾンが年15%前後で、楽天の流通総額の伸び率の年10%前後を上回っています。
楽天は直販が1割弱
アマゾンは配送センターなど物流網を整備した上で大手ブランドを多く取り扱ってきました。こうした商品はアマゾンジャパンの直販で、基本的に2000円以上の注文で通常配送が無料になります。アマゾン以外の業者が出店する「マーケットプレイス」方式もありますが、こちらもアマゾンの物流システムを使っていれば2000円以上は無料です。楽天は直販が1割弱しかなく、ほとんどの商品は出店者がいて独自に値段や配送料を決めています。楽天の調査では、客の7割近くが送料の高さや分かりづらさを理由に購入をあきらめた経験があると言います。
(写真は、アマゾンが全国各地に置いている配送センターの一つ、茨木フルフィルメントセンター。「アマゾン ロボティクス」と呼ぶシステムで作業は自動化されている=2019年4月4日、大阪府茨木市)
ZHDは買収などで規模拡大
ZHDは複数の通販サイトをもっていますが、送料の設定はさまざまで、今回の送料問題には参入していません。昨年9月に衣料品通販サイト「ゾゾタウン」のZOZOを買収しました。10月にはネット通販モール事業の「PayPayモール」を始めました。また、LINEとの統合によりLINEショッピングも同じ「経済圏」に入ることになりました。こうした他サイトの買収や新事業の立ち上げなどで、着々と規模拡大を図っています。
(写真は、ZHDを傘下に持つソフトバンクグループの孫正義会長兼社長)
強くなりすぎて規制も
こうしたプラットフォーマーの競争は別の問題も生んでいます。プラットフォーマーが強くなりすぎて、出店者や小さなサイトが苦しい立場に追い込まれることです。政府は「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」を今年中に成立させようと考えています。プラットフォーマーを規制し、出店者などを保護する法律です。今回、楽天に対して公正取引委員会が立ち入り検査に入りましたが、その背景にもプラットフォーマーが強くなりすぎていることがあります。消費者にとっては3強の争いはメリットもありますが、長い目で見ると選択肢が奪われることにもなりかねません。3強はまだまだ成長するでしょうが、利益を追い求めすぎず、社会とあつれきを起こさないことが大事になるでしょう。
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