政府は、NHKが番組を放送すると同時にインターネット配信もできるようにする放送法改正案を国会に提出しました。放送法が改正されると、NHKは2019年後半にも「常時同時配信」を始めることにしています。一方、民間放送は今のところネット配信をしても広告収入があまり見込めず放送による収入が減少する心配のほうが大きいため、常時同時配信をする動きはありません。そのため、ネットでのNHKの存在感が高まることになり、メディアとしてはNHKのひとり勝ちとなる可能性があります。これまでテレビ放送は、公共性の強いNHKと多様性のある民放の2本立てで成長してきましたが、放送と通信の融合という流れの中で民放の危機感は強まっています。将来民放はどうやって生き残るのか、模索が続きそうです。テレビ局志望者だけでなく、私たちの生活に大きな影響を及ぼすテーマです。今後に注目してください。
(写真は、2015年10月19日の実験で同時配信されたNHKの朝の情報番組「あさイチ」)
公共性と受信料徴収を意識する
NHKは2010年に常時同時配信をしたいとの方針を表明しました。若者はネットをみる時間が多く、テレビ離れをしていると言われるようになったからです。その後、スマートフォンの普及でテレビ離れに拍車がかかり、公共性と受信料の徴収を意識するNHKは、すべての番組をネットで同時配信したいという意欲を強めていました。NHKの場合、経営は受信料でまかなわれており、ネット配信を始めてもそのコストやテレビ視聴率の低下は経営に深刻な影響を与えないという判断があります。すでにイギリスやドイツではNHKにあたる公共放送がネット配信を始めています。
ネットの広告収入は少ない
一方、民放は収入の多くを番組間に放送する広告収入でまかなっています。2018年の地上波テレビの広告収入は1兆8000億円近くに上っています。民放もさまざまな形でネットでの動画配信サービスを始めていますが、その広告収入は地上波の1%にも満たないとみられています。ネット上には数多くのサイトがあり、動画配信サービスの影響力はまだまだ小さいためです。このため、若者のテレビ離れを気にしながらも、テレビ離れをいっそう進める可能性のある常時同時配信には踏み切れないのが実情です。
NHKは基準遵守を明言せず
NHKのひとり勝ち懸念に対して、国はNHKがネット業務に投じる費用を受信料収入の2.5%までにするという基準を設けています。しかし、常時同時配信を始めるとこの枠を超える可能性があります。NHKは2020年以降も基準を守るかどうか明言していません。NHKがこれからネット配信にどんどん力を入れていくことも考えられ、民放にとって国の基準が安心材料にはなっていません。
(写真は、放送法改正案を閣議決定後、記者の質問に答える石田真敏総務相=2019年3月5日)
民放は番組制作力で生き残りを
こう見てくると、今のところNHKの将来性には大きな問題は見当たりませんが、民放は放送と通信の融合をどのように進めていくかという問題が立ちはだかっています。このほかにも放送局の番組を作るソフト部門と放送設備の保守・管理をするハード部門を切り離す議論も政府内で出ています。分離が実現すると、ネットで番組を配信する業者が放送設備を持たずに放送分野に参入できるようになります。既存の民放は分離には反対の立場です。民放の将来は混沌としていると言っていいでしょう。ただ、民放には幅広いジャンルの番組制作のノウハウがあります。番組を送るシステムがどう変わろうと、番組制作力にさらに磨きをかけていくことが生き残りのカギとなるのは間違いないでしょう。
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