日本政府が後押ししてきた原子力発電所の輸出が行き詰まっています。6カ国であった日本進出計画のうち5カ国は頓挫し、最後に残ったイギリスでの計画も主体となっている日立製作所の中西宏明会長が「このままでは計画を進められない」と表明しました。日本の原発輸出は総崩れの状態です。東日本大震災の教訓から安全基準が強化されて建設費が高騰する一方で、再生可能エネルギーのコストは低下しており、競争力に陰りが出ていることが原因です。国内でも、原発に対する世論の反発は強く、新増設の計画が動き出す状況は見えてきません。政府や業界は原発に関する技術力を維持するためにも国内外での原発建設を進めたいという立場ですが、このままならその技術力は廃炉作業に向けて発揮するしかなくなりそうです。花形とされた時代もあった原子力関連産業ですが、曲がり角に来ていることがはっきりしてきました。
(写真は、英西部アングルシー島の原発建設予定地。奥に見えるのは廃炉作業中の原発=2017年10月)
残っているのはイギリスだけ
日本政府は10年ほど前から海外での原発建設をインフラ輸出の柱として推進してきました。ベトナム、リトアニア、アメリカ、台湾、トルコ、イギリスで日本製原発の建設に向けて計画が動き出しました。しかし、2011年の東日本大震災での福島第一原発事故により、各国の原発に対する世論は厳しくなりました。その結果、安全基準が厳しくなり、建設費が高騰しました。それまで一基5000億円かかるといわれていたのですが、今は一基1兆円超といわれます。このため、各国の政府や国民の姿勢が変わり、日本側の条件と折り合わなくなりました。次々に計画が撤回されたり凍結されたりして、残っているのがイギリスだけになっているのです。
太陽光や風力のコスト下がる
再生可能エネルギーのコストがここにきて大幅に下がっていることも原発への逆風になっています。太陽光や風力発電のコストは立地条件によって変わってきますが、海外ではすでに火力や原子力を下回っているところもあるようです。ドイツや北欧で盛んな海上風力発電では、直径200メートル近い巨大な風車を海上に並べて設置し、コストはどんどん下がっています。太陽光発電もエネルギーへの変換効率が上がるなどして、ここ10年ほどでコストは半分くらいになっています。こうしたことから海外では原発から再生可能エネルギーへの流れがはっきりしてきており、原発輸出への逆風になっています。
(写真は、原発建設予定地のトルコ・シノップで建設反対のデモをする人たち=2016年4月、メティン・ギュルブスさん提供)
再稼働や新増設進まず
国内では、震災前には原発が54基ありましたが、そのうち20基が廃炉の方向となっています。残る34基のうち再稼働しているのは9基で、ほかに6基が主要な審査を通過しています。しかし、それ以外の再稼働は見通せていません。また、震災前に建設が決まっていた計画は青森県の大間、東通、福井県の敦賀、島根県の島根の4カ所ありますが、動き出していません。安倍政権が決めた第5次エネルギー基本計画では総発電量に占める原発の割合を30年度までに20~22%にする目標を掲げています。目標達成のためには30基程度の原発を再稼働や新増設で動かす必要がありますが、簡単ではなさそうです。
廃炉や廃棄物関係で仕事は長く残る
日本原子力産業協会によると、原発に関係する仕事をしている人は4万7000人余りで、最近は横ばいになっています。電力会社で働いている人のほか、原子炉メーカーとして日立製作所、三菱重工業、東芝で働いている人がいます。ほかに原発のメンテナンスをする会社や核燃料を作る会社などで働いている人も含まれています。今の流れでは原発を新しく建設する仕事は細りそうですが、これから廃炉が本格化したり放射性廃棄物の新しい処理方法が必要になったりすることが考えられます。脱原発が進んでも、かなり長い間、原発関連の仕事は残ります。前向きではないかもしれませんが、とても大事な仕事です。
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