日本の自動車メーカーは20世紀終盤、こぞってアメリカと中国に工場を建設しました。世界1、2位の巨大市場で勝負するには輸出だけではだめで、現地生産が必要と判断したためです。しかし、スズキは中国での自動車生産から撤退することを発表しました。スズキは2012年にアメリカでの生産からも撤退しています。アメリカ、中国の市場は世界の大手メーカーが最重点市場としてしのぎを削っています。しかも、市場で人気のあるのは中大型車で、小型車が得意のスズキには不利です。スズキは勝ち目のない市場に見切りをつけ、代わりに圧倒的に強いインド市場に力を入れることにしました。その先にはアフリカ市場も見ています。こうしたスズキの海外戦略は日本の中堅自動車メーカーのひとつの「生きる道」を示していると思います。
(写真は、中国・重慶のスズキ車の工場=2008年)
中国市場は小型から中大型へ
スズキは1993年、中国の自動車大手重慶長安汽車と合弁会社をつくり、スズキの小型車を中国市場に投入してきました。ただ、中国が豊かになるにつれ、中国市場の売れ筋は小型車から中大型車に移ってきました。スズキの合弁会社の中国での生産はピークだった2010年度に比べて2017年度は7割も減りました。また、中国政府は電気自動車の普及を後押ししていますが、スズキには電気自動車がなく、市場の流れに乗れないこともはっきりしてきました。こうしたことから、中国からの撤退を決めたのです。
(写真は、重慶空港で客待ちをするスズキ車のタクシー=2008年)
インドでは圧倒的な強さ
一方で、スズキはインドで圧倒的な強さを誇っています。1981年、スズキはインドの国営会社と合弁でマルチスズキという会社を作りました。まだ外国メーカーは見向きもしなかったインド市場でしたが、当時の鈴木修社長が「将来必ず伸びる」とみて進出を決断したのです。その予想は当たり、インドは年間約350万台の乗用車が売れる世界第5位の巨大市場になりました。スズキのクルマはこのうちほぼ半分を占めています。トヨタやホンダがひと桁のシェアしかないことをみても、スズキのシェアが圧倒的であることがわかります。いの一番に市場に入り現地化に取り組んだ実績が、世界の巨大メーカーすら蹴散らす強さにつながっています。
(写真は、インド・ニューデリーのスズキの販売店=2010年)
東ヨーロッパやアフリカも
インド市場はまだまだ伸びる可能性を秘めていて、2030年に1000万台になるという予測があります。スズキはアメリカや中国を捨て、インドに力を集中させることで、さらなるシェアアップを目指すことにしたわけです。スズキは1990年代には市場主義経済を取り入れたハンガリーにもいち早く進出し、東ヨーロッパでも強みを見せています。さらにこれからの有望市場としてアフリカもにらんでいます。
(写真は、インドから逆輸入する小型ハッチバック車「バレーノ」と、鈴木修会長)
大変革を戦えるのは巨大メーカー
今、自動車業界は大変革期を迎えています。電気自動車や自動運転へのシフトは、現実味を帯びた流れになっています。こうしたシフトは、アメリカ、中国といった巨大市場で先行するでしょう。そうした変化の最先端の市場で戦えるのは、大きな資本を持って技術開発を進めているメーカーだけだと思われます。日本で言えば、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社ではないでしょうか。それ以外のメーカーは巨大メーカーと手を結んで巨大市場に乗り込むか、スズキのように巨大市場を捨てて、シフトまでにかなり時間のかかりそうな新興国市場に力を入れるか、どちらかの道を選ぶことになるのではないでしょうか。
(写真は、2017年の東京モーターショーに出品した電気自動車の試作車と、鈴木俊宏社長)
将来を見据えた戦略が大事
大変革期には、先々を読んで手を打っていく戦略がとても大事になってきます。スズキのアメリカ、中国からの撤退は一見後ろ向きに見えるかもしれませんが、新興国市場に特化して勝負するという前向きな戦略でもあります。就活生は企業研究をする際、その会社に将来の戦略があるかどうかに着目してみてください。
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