最近、女性のタクシー運転手が増えたと感じます。背景にあるのは慢性的なタクシー運転手の不足です。タクシー運転手は、労働時間や給与などの待遇面で魅力が少ないと受け止められている上、将来、タクシーの運転が無人に切り替わると予想されていて、長期的な雇用に不安を持たれています。このため、若い人材の参入が少なく、高齢化が進んでいます。一方で、外国人観光客が増えており、東京オリンピック・パラリンピックに向けて需要はそう減りそうにありません。業界は相乗り営業、定期券導入、宅配参入、専用車開発などでさらに需要を増やそうとしていますが、運転手不足を解決する妙案はなく、難しい時代を迎えています。
(写真は、静岡県富士市の「石川タクシー富士」の女性運転手。物腰の柔らかい接客が好評だ)
女性運転手を1万4000人に
全国のタクシー運転手は、ここ10年で約7万人減り約30万人になっています。平均年齢は年々上がり、今はほぼ60歳になっています。中には80歳代の現役運転手もいるといいます。全産業労働者の平均年齢は40歳代半ばですから、タクシー運転手の高齢化がわかります。また女性運転手については、国土交通省が増やすように旗を振っており、2020年までに2013年の倍近い1万4000人に増やすことを目指しています。そのため、タクシー業界は日中だけのシフトを設けたり、託児所を設けたりして受け皿づくりを進めています。
(写真は、運転手はすべて女性という京都市の「みとちゃんタクシー」)
自家用ライドシェアは大打撃
業界は大きな変化の入り口に置かれています。まず、目先ではアメリカや中国で盛んになっているライドシェアへの対応があります。ライドシェアは、行き先が同じ方角の人を相乗りさせて、営業することです。今は過疎地などで限定的にタクシー業界に認められていますが、国交省は都市部でも解禁しようとしています。ただ、アメリカや中国ではタクシー業界だけではなく、自家用車で人を送迎することも認められています。日本では、安全性を理由に認められていませんが、タクシー料金よりも安くなるため、規制改革推進会議で導入の議論が行われています。認められれば、タクシー業界には大きな打撃になります。
(写真は、青森県弘前市の「北星交通」で高齢者サポートも担う女性運転手)
あと10年もすると雇用の危機
長期的にみれば、無人タクシーが雇用にとっての大きな脅威になります。無人タクシーは、すでに日産自動車とDeNAが公道で実験を進めています。人が運転しなくても、自動で交差点を曲がったり、横断歩道の前で止まったりできます。こうした自動運転技術はさらに進歩するものとみられますが、人の運転より安全であると確信できるまでにはまだ時間がかかるとみられます。また、事故が起こったときの法的な責任問題の解決はこれから議論が始まるところです。こうしたことから、無人タクシーが走り始めるのは2020年代に入ってからで、実際に多くのタクシーが無人に切り替えられるのは2030年代という予測が一般的です。とはいえ、あと10年もすると、タクシー運転手は雇用の危機に直面するわけで、今から不安になるのも理解できます。
(写真は、横浜市内で行う無人タクシー実験のイメージ=日産自動車、DeNA提供)
新分野に参入も
ただ、タクシー運転手という仕事とは別に、タクシー会社の経営という面から見れば、ピンチだけではありません。無人タクシー時代になると、タクシー料金が安くなるなどして今より気軽に使える乗り物になる可能性があります。鉄道やバスに代わる公共交通になるかもしれませんし、宅配業などの新しい分野に参入することもできるかもしれません。ピンチの裏にはチャンスあり、です。タクシー業界はこの大きな変化の時代に柔軟に対応できれば将来性のある業界とみることもできます。
(写真は、東京五輪に向け開発されたトヨタ自動車の新型タクシー。車いすのまま乗り降りできる)