社会のデジタル化によって逆風にさらされている業界はたくさんあります。製紙業界もそのひとつです。新聞や出版物がスマートフォン(スマホ)で読まれるようになり、主力だった新聞や出版に使う紙は、減少傾向が続きます。ペーパーレス化の言葉の下、コピーやプリントアウトに使う紙も減っています。そんな状況を見越し、業界は長く再編の動きを続けています。業界トップの王子ホールディングス(HD)は、6位の三菱製紙に33%出資することを決めました。紙は用途によっては増えている分野もあります。宅配需要の増加による段ボール、訪日外国人の増加が追い風になるトイレットペーパーなどの衛生用紙です。こうしたプラス材料もあるため、全体の縮小ペースは緩やかです。また、製紙会社には伝統のある会社が多く、土地、山林などの資産をたくさん持っています。まだまだ体力はあります。社会の変化や企業の対応次第では、新たな紙の可能性が出てきて、風向きが変わることも十分考えられます。
(写真は、王子HDの矢嶋進社長=左=と三菱製紙の鈴木邦夫社長=6日、東京都港区)
王子、日本製紙の2強
製紙業界は、王子ホールディングスと日本製紙が2強となっています。連結売上高1兆円を超えているのはこの2社だけで、王子が1兆5000億円、日本製紙が1兆500億円程度となっています。3位は段ボールが主力のレンゴー、4位以下は大王製紙、北越紀州製紙、三菱製紙と続いています。
敵対的買収失敗で緩やかな再編へ
製紙業界の再編は、1990年代から2000年代初めに本格化しました。王子製紙は神崎製紙、本州製紙を吸収合併しました。これに対し、十条製紙が母体になり、山陽国策パルプ、大昭和製紙などと合併して日本製紙が誕生しました。2006年には、王子製紙が北越製紙に対し、株式公開買い付けという敵対的買収の方法を提案しました。これに対し、「王子一強」になるのを恐れた業界が「反王子」で団結し、敵対的買収は失敗しました。その後、業界は、王子と日本製紙を中心に出資や提携といった形の緩やかな再編の時代に入りました。今回の王子の出資も、三菱製紙という会社を残したまま傘下に入れるという合併より緩やかな形をとっています。
8年連続マイナスの予想
紙・板紙の国内需要は2017年に0.3%減ったとみられています。これで7年連続の前年比マイナスです。業界団体である日本製紙連合会は2018年の見通しも発表していますが、0.9%減と8年連続のマイナスとなる予想です。分野としては、新聞用紙の減少が大きく、出版用紙やコピー用紙も減っています。一方で、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙は増えています。また、段ボールになる紙も伸びています。紙のマイナス材料には、スマホの台頭、国内人口の減少、アジア勢の攻勢などがあります。プラス材料には、インターネット通販が盛んになっていることや訪日外国人観光客が増えていることなどがあります。段ボールは生産が追い付かずに値段が高騰しています。外国人観光客は日本の衛生用紙の品質の良さを高く評価して、自分で使うだけでなくお土産にする動きもあります。
(日本製紙連合会のサイトはこちら)
(写真は、日本製紙の石巻工場=2012年8月、宮城県石巻市)
紙の服、紙の家、紙の飛行機…?
紙は、かつてはもっぱら文字を書いたり印刷したりする「読み書き」用に使われていました。そのうち、包装紙、段ボールなど「包む」用途が大きくなりました。さらに「ぬぐう、ふく」という用途が出てきました。トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、紙おむつなどです。製紙業界は、用途拡大によって成長してきたのです。そうした歴史を考えると、紙の新たな用途がこれからも出てくるかもしれません。紙の服、紙の家、紙の自動車、紙の飛行機、紙のスマホ……。荒唐無稽と思われるかもしれませんが、どこかに可能性はあるはずです。製紙業界を衰退産業とは考えず、可能性を秘めた業界と考えると興味がわいてきませんか。