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2018年01月31日

ビール大手4社、酒税法改正への戦略は?

食品・飲料

 日本のビール業界といえば、長く大手4社が圧倒的なシェアを占めています。いずれも戦前からの歴史のある会社で、主力のビール系飲料は人々の生活習慣と切り離せない商品であるため、比較的各社の業績は安定しています。ただ、人口減少や若者のビール離れがじわじわ進み、このままではじり貧になるのではという危機感もあります。そのため、各社は海外の酒造メーカーを買収したり、缶チューハイなど若者に人気のある商品に力を入れたりして、対策を急いでいます。こうした状況の中、10年がかりの大規模な酒税法の改正がスタートしました。ビール系飲料だけではなく、酒類全体の税金が変わりますので、今後の消費者の動向が気になるところです。ビール業界は変化に対応する力がより求められてきています。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

(写真は、「ビールで乾杯!」=オクトーバーフェスト実行委員会提供)

4社で99%のシェア

 ビール、発泡酒第3のビールを合わせたビール系飲料の2017年の出荷量をシェアの大きい順に並べると、①アサヒビール②キリンビール③サントリー④サッポロビールとなります。この4社で国内の99%を占めます。ビール系飲料以外の商品も含めた会社全体の売上高だと、①サントリーホールディングス②キリンホールディングス③アサヒグループホールディングス④サッポロホールディングスの順になります。日本酒や焼酎のメーカーは中小企業が多いため、日本の酒造メーカー全体の中でもこの4社が大手です。

若者はコスパでチューハイへ

 ただ、ビール系飲料の出荷量は13年連続で減っています。ピークだった1994年からは3割減となっています。2017年はビール系3種類のどれもが前年割れでした。業界では、飲酒量の比較的多い20~30代でビール離れが起こっているとみています。ビールは飲み慣れるうちにおいしく感じられるようになる飲料ですが、今は飲み慣れる前に、飲みやすくて値段が安く高アルコール、いわゆる「コスパのいい」酎ハイやハイボールを選ぶ傾向があるようです。

2026年まで3段階で酒税が変わる

 これから起こるビール系飲料を取り巻く環境の変化で大きいのは、酒税法の改正です。まず、2017年6月からお酒の過度な安売りを規制する改正酒税法が施行され、安売りの目玉だったビール系飲料の値上げが進みました。2018年4月からは、ビールの定義が拡大され、味付け用の香辛料が使えるようになります。各社は新商品を相次いで投入する方針です。酒税そのものは、今後3段階で変わります。2020年10月にビールは減税され、第3のビールは増税されます。2023年10月には、さらにビールが減税され、第3のビールが増税され、2026年10月にビール類の税金はすべて同じになります。また、日本酒、ワイン、酎ハイの税金も2026年10月には同じになります。ビールや日本酒は減税になり、発泡酒、第3のビール、酎ハイ、ワインは増税になるわけです。ただ、酎ハイは2020、2023年の増税はなく、2026年まで現在の税率のままです。ビール各社はこうした価格の推移をにらみながら、新商品の投入を考えていくことになります。

新しい挑戦ができる業界

 ビール業界が缶チューハイに力を入れるのは、税金が2026年まで据え置かれることもあります。第3のビールは増税となるのに、競合する缶チューハイは今のままですから、当面は酒税法改正が缶チューハイには追い風となるとみているのです。ビール各社はこのほか、原料や製法にこだわったクラフトビールの開発や医薬品などビール以外の分野にも積極的になっています。主力商品がじり貧になる見通しがあるとき、減少を補う手をどれだけ打てるかが、会社にとって重要です。ビール業界は主力商品の減少ペースが緩やかですし、伸びる海外市場もありますので、打つ手はたくさんあります。就活生は、「新しい挑戦ができる状況にある業界」と前向きにとらえたほうががいいのかもしれません。

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