東芝に国が関与案「海外流出防げ」
政府は、東芝が分社化する半導体事業に、官民ファンドの産業革新機構や政府系の日本政策投資銀行(政投銀)を活用した関与を検討しています。
東芝は、日本で最も大きなシェアを持っている半導体メーカーですが、原子力関係で出している巨額の赤字を穴埋めするために、ドル箱の半導体事業を分社化して50%以上の資本を外から入れてもらおうとしています。一方で、政府や経済界からは日本の技術流出を心配する声が出ており、外資の傘下に入ることを阻止する策を検討し始めたわけです。土俵際に追い詰められている日本の半導体業界を政府が助けることがいいのかどうか、今後議論が沸きそうです。(写真は、東京の東芝本社ビル)
(2017年3月18日朝日新聞デジタル)
世界シェア50%からの転落
日本の半導体業界は、1980年代には世界シェアの50%以上を持って、わが世の春を謳歌(おうか)していました。日本のデジタル家電が世界を席巻し、そのもうけを家電メーカーが内製していた半導体に投資するという好循環が続いていたのです。しかし、90年代になると、バブル崩壊で日本メーカーの力が弱くなり、代わって韓国、台湾のアジアメーカーやアメリカのメーカーに追い上げられるようになりました。
21世紀になると、日本の半導体づくりは、家電メーカーから切り離され、半導体専業メーカーに集約されるようになりました。それでも、シェアの減少は止められず、今では世界シェアが一桁になっているようです。こうした中で、東芝は数少ない優良メーカーといえます。
(写真は、三重県四日市市にある東芝の半導体メモリー製造工場)
シャープでも産業革新機構の名前
電機メーカーの苦境に際して、技術流出を恐れる政府が助け舟を出そうとすることは過去にもありました。シャープのケースがそうでした。シャープが液晶パネルへの過剰な設備投資で存続が難しくなったとき、官民ファンドの産業革新機構が出資しようとしました。世界一といわれたシャープの液晶技術を外資に渡したくない政府の意向がバックにありました。
一方で、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業も巨額の出資に前向きで、産業革新機構と鴻海の争いになりました。このとき議論になったのが、「政府が民間企業の経営に関与するのはいいのか」ということでした。変化の激しい最先端技術で競う業界で、政府が関与すると、防御的になったり意思決定が遅くなったりして、うまくいかないのではないかという意見がかなりありました。結局シャープは、鴻海の傘下に入ることを選びました。
(写真は、正式契約の記者会見で握手する鴻海の郭台銘会長=左と、シャープの高橋興三社長)
東芝は競争力を持てるか
東芝のケースも、こうした議論をよびそうです。産業革新機構と政投銀が出資することによって技術や人材の流出が防げると歓迎する声がある一方で、いったん危機が回避できたとしても、政府の意向に従って国内投資に限る閉鎖的な体質になれば、競争力を持てないのではないかという意見も出そうです。結局、シャープのケースと同様、東芝がどこの条件が最もいいかを経営の論理だけで判断するしかないでしょう。
IoTで需要は増える
世界の半導体の需要自体は、まだまだ伸びそうです。様々なモノがネットにつながるIoT(Internet of Things=物のインターネット)が今のキーワードになっています。そうした社会が進めば進むほど、半導体の需要は増えていくわけです。ただ、そうした社会の主役に日本がなるのは、簡単ではありません。技術や人材の流出を心配するより、海外の優秀な人材を呼び込んだり、海外の技術を学び取ったりすることが欠かせないと思います。