旅行・芸術…趣味の品充実/三越日本橋本店 改装計画(2016年5月24日朝日新聞朝刊)
三越伊勢丹ホールディングスが三越日本橋本店(東京都中央区)の改装計画を発表した。50代~70代中心の客層を40代に引き下げる狙い。そのために、新しい売り場は「日本文化」「ネコ」「アート」といった趣味を中心に品ぞろえする。同店は重要文化財に指定される見込みで、アールデコ風の装飾が施された中央ホールや外観はそのまま残すという。隈(くま)研吾氏がデザインし、総工費は約200億円になる見込み(改装イメージ図・三越伊勢丹ホールディングス提供)。本館と新館の一部の改装を先行させ2018年のオープンを目指す(全館の改装は2020年春までに終える)。
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重要文化財は、文部科学大臣と文化庁長官の諮問機関である文化審議会の答申に基づいて指定されます。5月21日の朝日新聞朝刊に「三越日本橋本店、重文に答申 文化審議会」の記事がありました。このデパートは鉄筋コンクリート造り7階建てで1927(昭和2)年に完成し、1935年には中央大ホールが設置され、戦後も増改築を繰り返してきたそうです。百貨店建築の指定は同じ中央区にある高島屋東京店(1933年=昭和8年建築)に次ぎ、2件目です。
おもしろいのは、三越が高齢化した客層を引き下げるのに、レトロな建物を残して活用しようとしているところです。冒頭の記事では、「じっくり座って接客したり、商品を実際に試してもらったりするコーナーも設ける。美術品などの展示品スペースも増やす」と書いていますが、こうした戦略の舞台装置にふさわしいというわけでしょうか。一方で、こんな記事もありました。「大正モダン、しばしお休み 大丸心斎橋店本館」(2015年12月31日朝日新聞大阪本社朝刊)。こちらは高島屋東京店と同じ1933年の建築。日本で活躍した米国の著名建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの代表作。やはりアールデコやゴシック風の装飾を施した優美なビルでした。こちらは重要文化財の指定はなく、外壁の一部や内装をなるべく活かしながらも380億円をかけ建て替える計画です。保存の運動もありましたが、「一部保存」となったのです。
昭和の初めにつぎつぎ建てられたきらびやかな装飾とどっしりした百貨店建築は、そのころの「ぜいたくな買いもの」の象徴でした。いまデパートの売り上げは海外旅行客の「爆買い」などでいささか持ち直していますが、長期的には低落傾向にあります。いったいこの状況をどう打開するのか。どんなビジネスのスタイルで消費者を呼び戻すのか。この課題とレトロな百貨店建築を建て替えるか保存するかの選択は連動しているといえるでしょう。一見はなやかな業界のウラには、シビアなビジネスの葛藤があります。さまざまな視点から業界研究をしてください。