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2015年09月25日

ニトリ創業者の一代記がおもしろい。その読み方は?

流通

愛嬌・度胸で試練乗り越える 『運は創るもの』似鳥昭雄著 (朝日新聞2015年9月20日朝刊)

 小学生のとき自分の名前を漢字で書けなかったほどの劣等生が、家具販売で成功し、連結売上高4172億円の大企業を育てた。「お、値段以上。」で知られるニトリ創業者の豪快な一代記である。(中略)「人生は冒険」という攻めの姿勢とシャープな経営ビジョンが印象的。その一方で、一歩家を出たら、にこにこする、(勉強ができない分)人より努力するか、人のやらないことをやる、といった親の教えも忘れない。

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 これは日曜日の読書面に載った「書評」という本を紹介する記事です。著者はジャーナリストの梶山寿子さん。本の出版は日本経済新聞出版社です。テレビCMでもおなじみの一流企業社長の自伝を業界研究の観点から読んでみましょう。ニトリといえば、東証1部上場で、従業員3000人近く、店舗も360以上を展開しています。ですが1967年に札幌市で開業した当時は、父親のコンクリート会社の持つ30坪の土地に開店した1店のみでした。

 似鳥氏は1944年生まれの当時23歳。ちなみに、調べてみると父娘騒動で揺れた大塚家具の大塚勝久さんは1943年生まれで同学年だそうです。やはり東証1部上場の大塚家具ですが、埼玉県春日部市にあった大塚氏の父親の桐だんす店がルーツで、1969年創業です。ニトリは安さと使いやすさで、大塚家具は高級路線で、店舗数と業績を伸ばしていきます。いずれにしても、どんな大企業でも最初はたいてい中小企業とかベンチャーといわれる企業だったということです。会社選びは、目の前の規模や安定性だけで判断するべきではないと言えるでしょう。

 この本で、さらに参考になるなと思ったのは、人との出会いを大切にする姿勢です。とくに2人について詳しく書かれています。1人は24歳の時、お見合いで結婚した夫人。接客の巧みさと度胸で創業間もない店の営業を支えたエピソードが書かれています。もう1人は、経営コンサルタントの渥美俊一氏。チェーンストア研究団体ペガサスクラブを設立し、ダイエーの中内功氏やイトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏、ジャスコの岡田卓也氏らスーパーマーケット・グループの創業者に影響を与えた人物です。

 渥美氏が説いたのは、たとえばこんな理論です。「100店、200店を運営することでバイイングパワーを獲得、メーカーではなく、流通業が価格の決定権を握ると同時に、消費者がコーディネートできる商品を作らすことをイメージしていた」(同書より)。それまで、がむしゃらに事業をしていた似鳥氏が初めて出合った実践的な経営理論でした。ともすると一代で大きな企業体を築いた創業者は、ワンマンと思われがちですが、まわりの味方に支えられて今があるのだということが謙虚に率直に書かれています。もし、受けたい企業の経営者に著作があるなら、読んでみましょう。「自慢話ばかりでうんざり」と思うこともあるかもしれませんが、「あっ、このリーダーの下で働けたらいいなあ」と感じる発見があるかもしれません。

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