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2015年09月29日

造船業は「日本の産業の縮図」? 三菱重工の動きから考える

機械・プラントエンジニアリング

三菱重工、創業ルーツの造船業にメス(2015年9月29日朝日新聞朝刊)

 三菱重工業が、創業の造船事業にメスを入れる。長崎造船所(長崎市)が手がける商船事業を10月1日に二つの会社に分社し、建造を液化天然ガス(LNG)船と液化石油ガス(LPG)船に特化してコンテナ船や自動車運搬船などは撤退する。種類を絞りこむことで効率化を図り、赤字の事業を早期に黒字にするねらいだ。

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 造船業、といっても、車や飛行機とくらべてピンとこない方も多いかもしれません。ただ歴史をひもとくとペリー来航以降、造船業は日本の近代化を推進してきた基幹産業のひとつということがわかります。明治期には日露戦争を戦った戦艦をはじめ大型船のほとんどを輸入に頼っていましたが、明治末期から大正期にかけて技術を進歩させ大型船の国産化に成功、1918年には国産船を輸出できるまでになりました。戦後は国際的な石油需要の高まりにあわせて大型タンカーの発注を大量にうけ1956年には建造量世界一になり、高度経済成長を牽引。日本の重工業大手のIHI、三菱重工、川崎重工はいずれも造船事業から会社を発展させてきました。

 だがそれ以降は石油ショック以降の造船不況を経て2000年に44年続いた造船世界一の座を韓国に明け渡し、以降も中国、韓国との価格競争にさらされてきています。今回の記事は、その流れを受けた動きをまとめたもの。創業者・岩崎弥太郎が明治政府から長崎造船所を譲り受けたことをルーツとする三菱重工にとって長崎はまさに創業の地なのですが、そこに構造改革のメスを入れざるをえない状況に追い込まれました。

 日本にとって世界と戦うためには高い技術力をいかした船造りが必要です。三菱重工は「中国には絶対できない」という豪華客船に狙いを定めて2011年に大型客船2隻を受注したのですが、発注主からの注文が多く設計変更を繰り返したため2015年度までに1336億円もの特別損失を計上。いまだに納品できていない状況です。今後は、低燃費が売りのLNG運搬船などに特化して黒字体質への転換をはかります。

 LNG運搬船は北米のシェールガス特需で活気付いてはいますが、特需が一段落したあとの展望はまだはっきり見えてはいません。ある専門家は日本の造船業を「廃虚から復興、世界トップ、不況、韓国や中国の追い上げと、日本の産業の縮図。将来がどうなるかリトマス試験紙のような存在」と位置づけています。モノづくりに興味のある皆さんはぜひ、今後の動きに注目してください。

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