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2022年09月16日

激変!自動車業界 国内14社+電機・IT・航空も参入【業界研究ニュース】

自動車・輸送用機器

 世界の自動車業界は激変期にあります。100年以上続いてきたガソリンエンジン車の時代が終わり、電気自動車(EV)の時代に変わろうとしています。また、技術の発達により人間が運転しないでいい自動運転車の時代も近づいています。最近では「空飛ぶクルマ」も新しい乗り物として注目を集めています。EVや自動運転車や空飛ぶクルマの普及はここ10~20年くらいで一気に進みそうな感じです。そうなると、人間が運転するガソリンエンジン車で成り立っていた業界地図は大きく塗り替わる可能性があります。今ある自動車業界の中での勢力分布が変わるだけではなく、電機業界、IT業界、航空業界、ベンチャー企業などが参入してきてまったく新しい業界地図ができるかもしれません。しかも自動車業界は世界市場で勝負しています。ライバルのアメリカや中国に比べて日本はこうした変化にやや出遅れている感がありますが、ここにきて変化への対応を急ぎ始めています。自動車業界はとても面白く、とても難しい時代を迎えつつあります。

(写真は、EV戦略を発表するトヨタの豊田章男社長=2021年12月、東京都江東区)

日本は世界3位の自動車生産大国

 日本は自動車生産大国です。生産台数では、中国、アメリカに次いで世界3位です。海外生産も多いので、メーカー別の生産台数にすると、日本トップのトヨタ自動車は毎年のように世界一を争っています。日本自動車工業会によると、日本の自動車製造業の製品出荷額は約60兆円で、これは全製造業の2割近くになります。自動車関連産業(製造、販売、修理、運転など)の就業人口は552万人おり、日本の中でとても大きな産業です。

トヨタ、ホンダ、日産が大手3社

 日本自動車工業会に入っている日本の自動車メーカーは14社あります。乗用車メーカーはトヨタ自動車、本田技研工業(ホンダ)、日産自動車三菱自動車工業マツダSUBARUスズキダイハツ工業の8社です。トラックメーカーがいすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バス、日野自動車UDトラックスの4社、二輪車メーカーがカワサキモータース、ヤマハ発動機の2社です。このうち、ホンダは二輪車メーカーでもあり、スズキとダイハツ工業は軽自動車を中心とするメーカーです。自動車メーカーは資本提携や技術提携によりグループ化が進んでいます。トヨタ自動車を中心とするグループにはマツダ、SUBARU、スズキ、ダイハツ工業、日野自動車があり、日産自動車のグループには三菱自動車が入っています。ホンダはアメリカのGM(ゼネラル・モーターズ)と提携関係にあります。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車が日本の大手3社ということができます。また、いすゞ自動車はスウェーデンのボルボグループと提携しており、UDトラックスはそのいすゞ自動車の傘下にあります。三菱ふそうトラック・バスはドイツのダイムラー・トラックの傘下です。

カリフォルニアで売れなくなる

 今、世界の自動車メーカーは、地球温暖化対策のために二酸化炭素(CO₂)を排出しないクルマにシフトしようとしています。アメリカ最大の州で移動手段のほとんどが自動車というカリフォルニア州では、2035年までに州内で販売されるすべての新車の乗用車や小型トラックを、排ガスを出さない「ゼロエミッション車(ZEV)」にするよう義務付けることにしています。今のガソリン車やハイブリッド車プラグインハイブリッド車を除く)は売ることができなくなります。こうした動きは、アメリカだけでなくヨーロッパの国々でも起きていて、自動車メーカーは、EV、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、水素エンジン車などのゼロエミッション車にシフトせざるを得なくなっているのです。中でも実用化に最も近いのがEVなので、EVシフトが加速している状態です。

価格抑えた軽EVが好調

 日本のEVで先行しているのは、日産自動車と三菱自動車です。日産は2010年に量産型のEV「リーフ」を発売し、日本のEVをリードしてきました。三菱は2009年に小型EV「アイ・ミーブ」を発売しました。両社にはこうした実績があるため、日産と三菱は共同で軽自動車タイプのEVを開発し、6月から発売を始めました。日産が「サクラ」、三菱が「eKクロスEV」という名称で、ともに200万円台で買うことができます。これまでのEVに比べてずいぶん安く、売れ行きが好調です。

日本は全固体電池で巻き返しを

 EVのネックは、1回の充電で走れる距離がガソリン車に比べて短いことや電池の値段が高いことです。電池の性能向上と価格低下がカギになるため、各社は電池製造に投資しています。ホンダは8月末、韓国電池大手のLGエナジーソリューションと合弁でアメリカにEV専用の電池工場をつくると発表しました。トヨタも8月末、アメリカで建設予定の電池工場と国内の電池工場にあわせて7300億円(約56億ドル)の投資をすると発表しました。日産自動車は9月初旬、車載電池事業を手掛けるビークルエナジージャパン(本社・茨城県ひたちなか市)を買収し、子会社にすると発表しました。各社は競うように電池事業の強化に乗り出しています。電池事業は、中国、韓国、アメリカなどに先を越されている感がありますが、日本勢はリチウムイオン電池の次を担うのは全固体電池だとみて研究開発を進めています。全固体電池は高性能で安全ということで、いち早く実用化にこぎつけて巻き返そうとしています。

海外で進む完全無人運転

 自動運転の技術開発も進んでいます。アメリカでは全く無人の完全無人運転車の配車サービスが始まっています。スマホに自分の居場所と目的地を入れると、無人のクルマがやってきて、勝手にハンドルがくるくる回り、公道をほかのクルマと同じようなスピードで走り、目的地に連れて行ってくれます。こうした無人運転タクシーは中国でも試験運行が始まっています。日本では完全無人運転はしておらず、地方のバスなどで実証運行を行っている段階です。ただ、事故の危険がまだあり、その場合の責任問題などが解消されていないため、一気に広がるかどうかはわかりません。電気自動車の普及と自動運転の普及は同時に進みそうな感じなので、完全無人運転に対応した法律や保険などの整備が急がれています。

(写真は、米グーグル傘下ウェイモが運営する完全無人運転の配車サービス「ウェイモ・ワン」の運転席。運転手がいない自動運転で時速約70キロで公道を走った=アリゾナ州チャンドラー)

ワクワクドキドキの業界

 日本の自動車メーカーは世界の中で依然ブランド力を持っています。乗用車メーカーだけでも8社も存続できているのは、技術力に裏打ちされたブランド力があるためです。ただ、今の激変期をうまく乗り越えられるかどうかはわかりません。大きな投資をするためには企業規模が大きくなければならず、自動車メーカー同士の合併や再編がさらに進む可能性があります。また、ホンダがソニーとEV製造の合弁会社を立ち上げるように、異業種と組むこともありえます。もう少し先を見ると空飛ぶクルマの実用化もありますので、その場合は航空会社やベンチャー企業と提携することも考えられます。少し前までは空想の世界だった乗り物が現実のものになりそうな時代に向かうわけで、自動車業界はワクワクしながらもドキドキもする業界だと思います。

(写真は、「空飛ぶクルマ」のイメージ=経済産業省提供)

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