
ビジネスの世界では、どの業種でもいまの世の中の流行、トレンドを把握しておくことが欠かせません。SNS時代では自分の関心以外のできごとやトレンドをチェックすることが難しくなっていますが、社会ではそこを脱して広い視野を持つことも求められます。トレンドの把握に手がかりとなるのが、毎年12月に発表される「新語・流行語大賞」。大賞にノミネートされる30語は正直知らないものも多いと思いますが、逆にその中身をチェックすることで、トレンドに対する視野を広げることができます。2025年の流行語大賞をチェックし、今後のトレンド把握の手がかりとしてみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・「新語・流行語大賞」のトップ10に選ばれ、集合写真に納まる受賞者たち=2025年12月1日/写真はすべて朝日新聞社)
大賞は高市早苗首相の発言

流行語大賞の正式名称は「『
現代用語の基礎知識』選
T&D保険グループ新語・流行語大賞」です。1984年にはじまり、時事用語・新語をあつめた年鑑「現代用語の基礎知識」に載っている用語をベースにノミネートする用語を選び、そこから選考委員会によってトップテンや大賞が選ばれます。選考委員は漫画家のやくみつるさん、お笑い芸人のパトリック・ハーランさん、女優の室井滋さん、講談師の神田伯山さんなどです。
2025年の年間大賞は12月1日に発表され、高市早苗首相の「
働いて働いて働いて働いて働いてまいります/女性首相」が受賞しました。女性初の首相である高市氏が自民党総裁に選ばれた直後に述べた発言で、現職の首相が年間大賞に選ばれるのは2009年の
鳩山由紀夫氏(政権交代)に次いで4人目だそうです。念願の総裁の座につき強い意気込みを示すための発言だったと思いますが、「ワーク・ライフ・バランス(WLB)という言葉を捨てる」という発言を重ねたことで、国のトップになろうとする人間が働き過ぎを称賛する発言はいかがなものかという批判も起きました。高市首相は授賞式で「決して多くの国民の皆さまに、働きすぎを奨励するような意図はございません」と弁明しています。そういった議論を巻き起こした意味でも、今年の世相を反映した言葉になったといえそうです。
(写真・「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれ、選考委員のやくみつるさんから贈られた絵を手に笑顔を見せる高市早苗首相=2025年12月1日)
今年のニュースを振り返るきっかけに

流行語大賞にノミネートされる30語は、今回の大賞のように1年間に 起きたニュース、社会問題に関連する用語と、それ以外で流行した用語に大きくわけることができます。今年のニュース関連のノミネート語には以下のようなものがあります。
・緊急銃猟/クマ被害
クマ被害が増え、今年から市町村長の判断で市街地での銃猟(緊急銃猟)ができるようになった。
・古古古米
コメの価格が高騰し、政府が備蓄米を放出。
・トランプ関税
トランプ米大統領が各国に行った関税引き上げ政策
・物価高
食料品や日用品をはじめ、あらゆる分野で値上がりが続いている。
・
フリーランス保護法
不利な取引を求められることが多かったフリーランスの働き手を保護するため、2024年11月に施行された。
いずれも重要なトピックですが、日々大きなニュースが更新されていくなかで少し前のニュースはつい忘れがちです。流行語大賞は、「今年こういうことがあったのか」と振り返るきっかけになると感じます。このほか、「
オンカジ」(
オンラインカジノの略。芸能人やスポーツ選手の利用発覚が相次ぐ)や、「
卒業証書19.2秒」(静岡県伊東市の市長が学歴詐称を指摘され、「卒業証書を19.2秒見せた」との発言が報じられた)といった用語もノミネートされました。また、新聞やテレビといった伝統的メディアへの不信感を示す「
オールドメディア」や、酷暑が続いて四季から春と秋が失われたことを示す「
二季」といったノミネート語は、まさにここ数年の社会のトレンド変化を示した言葉といえそうです。
(写真・「卒業証書」とされる文書の提出を再び拒否する内容の回答書を持参した静岡県伊東市の田久保真紀市長(右)=2025年8月8日)
今年も朝ドラからノミネート
流行語大賞では、今年はやったドラマや映画にまつわる用語がよくノミネートされます。前回2024年は「ふてほど」(ドラマ「不適切にもほどがある!」)が大賞となり、NHKの連続テレビ小説「虎に翼」の主人公の口癖「はて?」などがノミネートされていました。今年は下記のとおりです。
・教皇選挙
これは今年ローマ教皇が死去し、次の教皇を選ぶ選挙(コンクラーベ)があったというニュース関連の用語だが、偶然同時期に公開された映画「教皇選挙」も大きな話題を呼んだ。
・国宝(観た)
今年公開され、実写邦画映画の興行収入記録を塗り替えた映画「国宝」のこと。
・ほいたらね
土佐弁で「またね」の意味。NHK連続テレビ小説「あんぱん」の舞台が高知で、ナレーションや劇中で使われた。
今年も連続テレビ小説、いわゆる「朝ドラ」からノミネートとなりました。2013年に「あまちゃん」発で「じぇじぇじぇ」が流行語(年間大賞)となるなど、朝ドラは定期的に流行語を発信している印象があります。平日毎日放送しているぶん、印象的なキーワードが浸透しやすいという側面もありそうです。
スポーツ用語なし、バラエティーから2つノミネート

過去に「リアル二刀流」(2021年、米大リーグの大谷翔平選手)や「村神様」(2022年、ヤクルトスワローズの村上宗隆選手)、「アレ(A.R.E)」(2023年、阪神タイガースの岡田彰布監督)など多数の大賞用語が生まれたスポーツ関連は、今年ノミネートがありませんでした。アメリカ大リーグで世界一となったロサンゼルス・ドジャースのエース、山本由伸選手の「負けるという選択肢はない」は大きな話題を呼びましたが、残念ながらエントリー時期に間に合わず選外となりました。
一方、過去にさまざまな流行語が生まれたお笑い、バラエティー番組系の用語は、今年「
長袖をください」と「
ひょうろく」の2つがノミネートされました。こちらのカテゴリーはウェブ系の用語に押され、2023年に「I’m wearing pants!」(とにかく明るい安村)がノミネートされたものの前回はノミネートがありませんでした。過去のお笑い系の流行語は上記の「I’m wearing pants!」をはじめ「グ~!」(2008年大賞、エド・はるみ)や「ワイルドだろぉ」(2012年大賞、スギちゃん)「ダメよ~ダメダメ」(2014年大賞、日本エレキテル連合)など芸人が発信するギャグから生まれることがほとんどでしたが、今回はそういったギャグではなく、いずれも人気バラエティー番組「水曜日のダウンタウン」の企画から生まれた言葉だったことも印象的です。「ひょうろく」はフリーのピン(1人)芸人ですが、「水曜日」のドッキリ企画で人柄やリアクション が高く評価され、NHK大河ドラマに出演するほどの売れっ子になりました。
「長袖をください」は、お笑い芸人のダイアン・津田篤宏が「水曜日」の企画「名探偵津田」で発した言葉です。「名探偵津田」は津田がむりやりミステリードラマに巻き込まれ、ドラマ内で謎を解くまで帰れないという企画です。昨年の放送回で、沖縄に仕事で行くと聞かされ軽装だった津田がドラマに巻き込まれて新潟に行かされそうになり、出演者に対して「(途中で )ユニクロ寄ってください」「長袖をください」と押し問答するシーンが大きな話題を呼び、企画がきっかけで津田はドラマに登場した実母とユニクロのCMに起用されるに至りました。テレビのバラエティーはパワーを失ったと言われて久しいですが、そのなかで流行語を生み出した「水曜日」は気を吐く存在となっています。
(写真・ダイアンの津田篤宏さん(右)=2018年)
ネット用語より実際の活動にまつわる用語が増える

前回は「界隈」や「猫ミーム」、「BeReal」がノミネートされたインターネット発信の流行語は、今年は「
エッホエッホ」(メンフクロウのヒナが草むらを走る姿の写真を、海外の写真家がネット投稿して話題に。日本では「エッホエッホ」の擬音をつけたバージョンが流行した)や「
チャッピー」(ChatGPTのこと)がエントリーしましたが、数はそれほど多くありませんでした。一方、「
おてつたび」(お手伝い(短期アルバイト)と旅を掛け合わせた造語)、「
ぬい活」(好きなぬいぐるみと外出先で写真を撮ったり、服を自作したりする活動)、「
麻辣湯」(マーラータン、中国・四川省発祥の辛いスープ)や「
薬膳」(体を整える身近な料理)、「
リカバリーウェア」(遠赤外線による血行改善をねらった衣服)など、実際に体を動かしたり食べたりといった活動に関する言葉が多くノミネートされた印象があります。円安、物価高でいろいろな活動に制約が出るなかでも、工夫して楽しみをみつけようという動きがこういった流行語に反映しているのではないでしょうか。
流行語大賞といっても、正直半分くらいは「なんだこれ」と思う用語が入っているものです。筆者(福井)も恥ずかしながら、「
ラブブ」の存在を知りませんでした。知らない言葉を調べてみることで、トレンドに対する視野が広がるという効果もあります。ぜひ、流行語大賞を活用して、知識を増やすきっかけにしてください。
(写真・北京のポップマート1号店に並ぶ「ラブブ」のフィギュア=2025年11月11日)
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