業界研究ニュース

2015年05月29日

ジェネリック普及、8割目標に 日本の製薬業界はどう変わる?

医薬品・医療機器・医療機関

後発薬普及 8割目標/厚労省 医薬品1.3兆円削減 (朝日新聞5月27日付朝刊)

 厚生労働省は、後発医薬品(ジェネリック)の普及目標を2020年末までに80%にすると表明した。普及が進めば20年度に1.3兆円の医療費削減効果を見込む。

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 5月19日の業界トピックス(「武田は赤字、アステラスは売上最高--製薬業界に何が?」に引き続き、製薬業界のトピックを取り上げます。

 記事にもあるジェネリックについて改めて説明すると、特許や新薬のデータ保護期間が切れた新薬(先発薬)と同じ成分の医薬品のことです。記事によれば、ジェネリックの価格はふつう、先発薬の5~6割。国や地方の公費、患者の個人負担を減らすため、2013年時点での普及率46.9%を2020年までに8割以上にしようともくろんでいるわけです。医療費の増大は、国の財政を圧迫するなど、少子高齢化社会の日本にとって大きな問題です。1兆円以上も節約できるのだもの、結構なことじゃないの。確かに医療費削減という観点からは、万歳! といえるでしょう。

 ところが、たまたま筆者が受診した都内の人間ドックのベテラン内科医は、このニュースに対し、「でもね、日本の新薬の開発(創薬)にとってはマイナスの側面があるんですよ」と、言うのです。

 えっ? なぜでしょう。ジェネリックが安いのは開発研究費が価格にONしてないから。1つの新薬をつくるのには数十億、数百億円の費用がかかります。たとえば武田薬品工業のホームページを見ると、5月15日現在で2015年度の売り上げを1兆8200億円と見込み、研究開発費に3300億円つぎ込むとしています。売上高に占める研究開発費は18.1%です。一方、2015年3月期決算で売上高27兆2345億円のトヨタ自動車は、研究開発費に過去最高の約1兆円を投入したとのことですが(朝日新聞=名古屋=5月9日付朝刊)、売り上げに占める割合は約3.7%にしかなりません。「日本の医薬品がジェネリック一辺倒になれば、せっかく多額の費用をつぎ込んでも新薬メーカーは先行して得られる利益がガクンと減って、開発研究費を削る事態になりかねない」というわけです。さきの記事でも大手製薬メーカーに対する逆風要因としてジェネリックの市場拡大を指摘しましたが、こうして数字で見るとさらにその厳しさが実感できますね。

 創薬にはお金がかかる――それがよくわかる記事が朝日新聞4月18日付朝刊に出ていました(「iPS 200億円の大型研究 山中教授「臨床へ加速度的に資金必要」/京大と武田薬品、契約」)。武田は今後10年間で研究資金200億円を京都大iPS研究所に提供するそうです。iPS細胞で難病患者の細胞をコピーした組織を使えば、安全に効率よく治療薬の開発ができると期待されています。いま世界中でiPS細胞の創薬での応用競争が繰り広げられています。その研究には膨大な資金を要します。開発研究費をどれだけつぎ込めるかが創薬競争を制します。日本企業では最大手の武田薬品工業といえども、グローバルでは16位あたりなのです。

 日本の新薬メーカーを脅かすのはジェネリックだけではありません。TPP(環太平洋経済連携協定)でも、主要な争点の一つに、新薬のデータ保護期間のルール作りが挙がっています(「新薬のデータ 保護期間焦点/TPP会合」朝日新聞4月24日付朝刊)。日本やカナダは、この保護期間が新薬販売開始から原則8年で、アメリカは原則5年ですがバイオ医薬品は12年。一方、オーストラリアやシンガポールなど交渉国の大半は原則5年です。日米は「原則8年、バイオは12年」を主張していますが、多数決になったら負けてしまいます。そうなれば、ますます日本の新薬開発にブレーキがかかりかねません。

 一つの記事だけではニュースを一面的なとらえ方しかできないことがあります。気になるニュースがあれば、関連の記事も検索して読んでみる。業界や企業への理解がぐっと深まるでしょう。

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