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2015年06月02日

チェーン店でウナギが食べられるのはなぜ?

食品・飲料

なか卯、期間限定うな重(2015年5月28日朝刊)

 丼物チェーン「なか卯」は6月3日、中国産ウナギのかば焼きをご飯にのせた「うな重」を全国476店で発売する。8月上旬までの期間限定。税込み790円。かば焼きを2枚のせた「特うな重」は1190円。

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 学生、特に一人ぐらしのみなさんには心強い味方の丼チェーン店。そこから経済のニュースを考えてみようというトピックです。

 「ごちそう」の代名詞であるウナギが丼チェーンのメニューに並び始めたのは10年ほど前から。2007年に吉野家が「うな丼」を全国販売した時の値段は490円でした。それが現在、吉野家の「鰻丼」は730円(二枚盛は1080円)と約5割増し。記事にある「なか卯」の「うな重」も790円とあまり気軽に手を出せる価格ではありません。いくらアベノミクスでも、ここまでのインフレは許容していませんよね。

 でも思い出してください。日本で特にたくさん食べられているニホンウナギは2014年6月、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定しています。ウナギは卵から育てる「完全養殖」が非常に難しいため、育てるためには稚魚(シラスウナギ)を捕まえるしかありません。ですがこの稚魚の漁獲量は年々減り、約40年前は年100トン近くあった漁獲量が2013年には約5トンにまで減少しています。本来は490円どころか1000円以下で食べること自体おかしい状況なわけで、慣れとは恐ろしいものですね。

 高級魚のウナギがチェーン店でも食べられるようになったのは輸入ウナギ、特に中国産ウナギが増えたためです。国内のウナギ生産量のピークは1985年の約4万トンで、輸入(約4万トン)も含めた全体の供給量は約8万トンでした。これが15年後の2000年、国内生産は約3万トンでしたが輸入量がその約4倍の13万トンに、全体の供給量も16万トン近くにまで達しています。そのため、価格破壊が進んだわけです。しかしこの年をピークに輸入量、生産量とも急落し、2014年は輸入2万トン、国内1万8000トンの計3万8000トンにまで市場が縮小しました。実は中国産ウナギの大半は「ヨーロッパウナギ」という種類なのですが、こちらはニホンウナギより早く2008年には絶滅危惧種指定を受けています。中国産だから多量に供給されるというわけでもなくなってきているのです。

 そんな状況でも、企業は様々な工夫をこらします。2013年、ダイエー(現在はイオン傘下)は国内産かば焼きを前年から2割値下げしました。7月の「土用の丑の日」に並ぶウナギはその年の1月に仕入れて加工し冷凍していたのですが、この年は前年秋に購入、業者が暇な時に加工してもらって費用を安く抑えたのです。安売りによる宣伝効果で売り上げ自体を伸ばす狙いもあったとのことです。

 産卵から成魚まで育てる完全養殖の研究も進んでいますが、今年目を引いたのは「ウナギ味のナマズ」というニュース。クロマグロの完全養殖に成功した近畿大学に所属する研究者が鹿児島で研究を重ね、「マナマズ」という種類を油脂を多く含むエサで育てたところ、ウナギの味にかなり近くなったそうです。

 ウナギの稚魚が捕れなくなった理由は特定できておらず、当分は消費量を減らして稚魚がまた増えるのを待つしかありません。ですがそんな逆風時にこそ、ビジネスの種は潜んでいます。水産養殖技術には食品メーカーや商社、小売業、外食産業、さらに水質環境を整える化学メーカーなど様々な業種が関わってきます。すこし奮発してうな丼を食べながらいろいろ頭の体操をしてみましょう。

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