日本生命保険から三菱UFJ銀行に出向していた社員が、同行の内部情報を無断で持ち出していたことが発覚しました。日本生命は、「取得した情報は7金融機関で計604件に上る」という調査結果を公表しています。持ち出しのおもな目的は、銀行の窓口で日本生命の保険商品がよく売れるようにすることでした。日本生命は顧客や銀行などの関係者に謝罪しています。
生命保険会社の出向者による銀行内部情報の持ち出しは、ほかの生命保険会社でもおこなわれていた可能性が否定できません。背景には、少子高齢化により生命保険販売の国内の伸びが頭打ちになっていることがあります。一方、日本の経済団体の中でもっとも影響力の大きい日本経済団体連合会(経団連)の会長に2025年5月から日本生命の筒井義信会長が就任しました。生命保険業界出身の会長は初めてです。経団連会長は「財界総理」ともいわれるポストで、出身業界の不祥事は会長の権威を揺るがし、経団連の発言力にも影響します。コンプライアンスについて、業界の体質改善が急がれます。
(写真はiStock)
日本生命など4社が大手
生命保険会社を経営するには金融庁の免許が必要です。現在免許が与えられている生保は41社あります。国内で大手といわれるのは日本生命、第一生命ホールディングス、明治安田生命、住友生命の4社で、いずれも歴史の古い会社です。大手4社に準じるのは T&Dホールディングス、ソニー生命、富国生命、朝日生命です。外資系の会社も多く、医療保険に特化していたり、通信販売を専門としていたりする会社もあります。
(写真・日本生命保険の看板=東京都千代田区/朝日新聞社)
歴史の古い会社には相互会社が多い
会社の形態としては、生保にだけ認められている「相互会社」の形をとるところが歴史の古い会社を中心に多くなっています。相互会社は契約者が会社の構成員(社員)となり、決定機関は社員の総代による社員総会(総代会)になります。明治時代に生保は相互扶助の組織として生まれており、その精神を受け継いだ形が今も続いています。ただ、より近代的な形である株式会社にしようという動きもあり、第一生命は2010年に相互会社から株式会社になりました。ほかにもT&Dやソニー生命など歴史の浅い生命保険会社は株式会社です。
販売代理店や銀行による販売が増える
大手生保はかつて、生保レディーとよばれる女性の営業職員が縁故を頼ったり飛び込み営業をしたりして販売する手法を中心にしていました。今もこの販売手法はありますが、そのウェートは落ちています。代わって増えているのが、各社乗り合いの販売代理店による販売と、銀行の窓口販売です。販売代理店も銀行も生保から販売手数料を受け取って生保の商品を売っています。顧客にとっては特定の生保レディーとの関係性から契約をするより、いろいろな商品を比べて自分のニーズにあった商品を選ぶほうが納得のいく選択になることが多いと思います。しかし、保険商品の仕組みは複雑ですぐに理解できる人は多くありません。生保側は販売代理店や銀行に出向者を送り込むことで、他社の情報をとって本社に送ったり、自社商品を推奨するように仕向けたりしていた疑いがもたれています。顧客にとって、希望に沿った最適な商品を自分の意思で選べたとは言えない状況が生まれていた可能性もあるのです。
(写真・会見で謝罪する日本生命保険の赤堀直樹副社長(手前)=2025年9月12日/朝日新聞社)
非保険ビジネスと海外進出
生保の課題は、少子高齢化により主力商品である死亡保険などの販売増が望めなくなっていることです。そのため、外貨建て一時払い終身保険や変額保険のような資産運用型の商品の販売に力を入れています。ただ、これらは仕組みが複雑で、損をすることもある商品なので、契約者からの苦情も少なくありません。そこで、力を入れつつあるのは非保険ビジネスと海外進出です。第一生命は2024年、福利厚生代行を手がけるベネフィット・ワンをパソナグループから買い取りました。また、日本生命は2023年に介護最大手のニチイ学館の親会社のニチイホールデイングスを買収しました。生保各者は海外進出にも意欲的で、日本生命は2024年12月、アメリカ系生保のレゾリューションライフを約1兆2千億円で買収しました。日本の生保では過去最大の投資額です。明治安田生命は2025年2月、アメリカで保険事業を展開する「バナーライフ」を約3500億円で買収し、あわせて親会社のリーガル・アンド・ジェネラルの株式の5%を約1300億円で取得すると発表しました。今後もアメリカやアジアなどで展開するための日本の生保の動きがあると思われます。
高齢社員への対応が分かれる
生命保険会社は、加入者が払う保険料を株式、債券など多岐にわたる金融商品や不動産などに投資し運用して、利益を稼いでいます。今は金利が上がる局面ですし、株価も不動産価格も上昇基調にあるので、業績は好調です。一方で、人手不足は生保業界でも深刻になっています。対処の仕方は会社によってさまざまです。明治安田生命は2027年4月から、定年を現在の65歳から70歳に延長することにしています。元気な高齢社員に長く働いてもらおうとする取り組みです。一方、第一生命ホールディングスは第一生命保険の社員のうち、50歳以上で勤続15年以上を対象に千人の希望退職を募りました。海外や非保険分野に事業領域を拡大するなかで、今までとは違うキャリアを求めた採用活動をするためだそうです。ベテランの力を使い続けるやり方と社員の多様化や新陳代謝を求めるやり方とでは方向性が大きく違います。ただ、どちらも安穏としていられない業界状況が背景にあるようです。
(写真・第一生命ホールディングスの本社ビル=東京都千代田区/朝日新聞社)
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