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2021年07月16日

HV車は生き残れるか 「トヨタvsホンダ、日産」の構図【業界研究ニュース】

運輸

 欧州連合(EU)は7月14日、2035年にガソリン車ディーゼル車の新車販売をハイブリッド車(HV)も含めて事実上禁止する案を発表しました。中国、米国に次いで大きな市場であるEUがHVも含めた厳しい規制に踏み切ったことは、日本の自動車業界には大きな衝撃です。多くの国は21世紀半ばに温室効果ガスを実質ゼロにすることを表明しています。そのために排気ガスを出すガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止しようとする世界の流れが生まれています。ただ、電池とガソリンエンジンを組み合わせたHV車が禁止対象に含まれるかどうかは、国によって違いが出ています。中国や日本は2035年に新車販売を禁止するクルマからHVを除外しています。米国は国全体としてまだはっきりしていませんが、州によってはHVを含めて禁止と決めているところがあります。HVはトヨタ自動車が世界で初めて実用化した技術で、今も日本メーカーが圧倒的に強みを見せています。もしHVが世界で全面的に禁止されることになれば、トヨタを中心に日本メーカーには大きな打撃となります。自動車業界は動力源の変更と運転の自動化で「100年に一度の変革期」と言われています。その中でHV車が生き残れるかどうかも日本メーカーにとっては大きな注目点になっています。

(写真は、トヨタ自動車を代表するHV車「プリウス」=同社提供)

「トヨタ1強」が進む

 日本の自動車(四輪車)メーカーは、トヨタ、日産自動車ホンダマツダスバル三菱自動車スズキダイハツ工業の乗用車系8社と、日野自動車いすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バスの商用車系3社の計11社あります。ただ、環境対応や自動化などの新しい技術開発に大きな資金や人材が必要なため、系列化が進んでいて、マツダ、スバル、スズキ、ダイハツ、日野、いすゞにはトヨタの資本が入り、トヨタから技術協力も受けています。三菱自動車は日産自動車の傘下に入っています。ホンダは米国のゼネラル・モーターズ(GM)と電気自動車(EV)開発で提携しています。三菱ふそうトラック・バスはドイツのダイムラーグループの一員になっています。売上高や利益などの企業規模はトヨタ自動車がダントツで大きく、ホンダ、日産が続きます。トヨタは2020年の新車世界販売台数で世界トップです。日本の自動車メーカーは「トヨタ1強」が進んでいると言ってもいい状況になっています。

業界に2つの大きな流れ

 自動車業界の今後については、二つの大きな流れがあります。ひとつは脱ガソリン・ディーゼルエンジンで、もうひとつは運転の自動化です。自動化では、アップルソニーなどIT業界や電機業界からの参入が予想されるなど業界地図が塗り替わる可能性がありますが、まだ完全自動化の実現までには時間がかかりそうで、法律の整備なども含めて先行きは不透明です。脱ガソリン・ディーゼルエンジンのほうは、国や地域による規制の方向やそれぞれのメーカーによる対応が徐々に見えてきています。こちらもメーカーが対応を誤ると、業界地図が塗り替わる可能性があります。

トヨタの世界販売車のうちHVは22.5%

 EUが発表した案は、日本メーカー、特にトヨタにとって厳しいものです。トヨタが2020年に世界で販売した新車のうちHVは22.5%にのぼります。国内向けだとトヨタのHV比率はもっと高く、2020年で35.5%にのぼっています。ホンダもHVの販売を増やしていますが、その比率はホンダブランドの世界販売台数の10.8%でトヨタより小さくなっています。また、日産はEVに力を入れているため、HVの販売比率はもっと小さくなります。HVが禁止対象になる影響をもっとも大きく受けるのはトヨタになるとみられます。

米国でもHVは禁止対象になる可能性

 世界でもっとも市場規模が大きいのは中国ですが、米国とEUも大きく、世界の3大市場と言えます。中国は2020年に「2035年の新車販売のすべてをEVなどの新エネルギー車(NEV)、もしくはハイブリッド車(HV)にする」としています。ハイブリッド車の新車販売は中国では認められますが、EUでは認められないということになります。EUを離脱した英国も2035年にHVを禁止します。残る米国の規制が注目されますが、米国でもっとも自動車販売台数の多い州であるカリフォルニア州は「2035年までに州内で販売されるすべての新車をゼロ・エミッション車にする」としています。ゼロエミッション車とは排気ガスゼロのクルマです。HVは排気ガスがゼロではないので販売できない、と解釈されています。北米ではカナダもゼロエミッション車でなければ販売できないという規制を公表しており、こうした動きから米国市場でもHVは禁止対象になるのではないかと予想されています。

トヨタは今後もHVを主力と位置づけ

 こうした米国の空気を見越してか、ホンダは2021年4月、「2040年までにすべてをEVか燃料電池車(FCV)にする。ハイブリッド車も売らない」という方針を表明しました。GMは2035年までにすべての新車をゼロエミッション車に切り替えると公表しています。スウェーデンのボルボ・カーズは2030年までにHVを含めたガソリン車からの撤退を公表しています。一方、トヨタは2030年に電動車の世界販売台数を800万台程度にするという目標を2021年5月に発表しました。内訳はEVとFCVが約200万台。残りの約600万台はHVとプラグインハイブリッド車(PHV)です。つまり、トヨタは今後もハイブリッド車を電動車の主力と位置づけています。

欧米主導のルールになるか

 世界各国は、国際ルールを自国に有利になるように作ろうとすることがままあります。新車販売の規制についてもそうした面がありそうです。HVに強い日本や、燃費規制をクリアするためHV車の生産に力を入れつつある中国は「HVは規制しない」とし、HVをあまり生産していないEUや米国は「規制する」という方向で分かれそうです。日本メーカーでも、トヨタは「生産を続ける」、ホンダは「生産をやめる」と方針が分かれています。ただ、こうしたルールはどちらかが優勢になり、劣勢になったほうは経済的に成り立たなくなるので結局一本化されることになるのが通例です。今のところ流れは欧米にありそうです。2035年までにはもう少し時間があるので、トヨタはこのまま走りながら情勢を見極めようという姿勢と思われます。ただ、トヨタがHVに執着しすぎると新しい時代に乗り遅れる可能性があります。自動車業界を志望している人は、ハイブリッド車の規制の行方に関心をもつようにしてください。

(ホンダのEVコンセプトカー=2020年9月、北京市)

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