業界研究ニュース 略歴

2021年08月06日

生保業界は巨大な機関投資家 生保マネーに注目【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

機関投資家として存在感を増す生命保険業界

 日本はアメリカに次ぐ「生命保険大国」と言われます。10世帯のうち9世帯が何らかの生命保険商品を持っているという調査結果があります。国内の生命保険会社の業界団体である生命保険協会には42社が加入していますが、合計の運用資産は2021年3月末で404兆円となり、初めて400兆円を超えました。国民年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の約180兆円を大きく上回り、機関投資家としての存在感を増しています。ただ、世界的に超低金利となっていますし、株式市場には高値警戒感が出ており、運用が難しくなっています。そうした中で、比較的高い利回りが見込めるのが不動産投資で、明治安田生命は2022年度までに東京・新宿、名古屋、福岡、広島、金沢の一等地に持つ不動産の再開発に着手します。また、業界には株式投資などの際、企業の脱炭素社会への取り組みを判断材料のひとつにする考えもあり、生保マネーが社会を動かす力になる可能性があります。ニュースで取り上げられることがそれほど多くない業界ですが、実際にはとても大きな影響力を持っている業界なのです。
 就活ニュースペーパーは来週、夏休みのため記事の更新はありません。まだ読んでいない記事に目をとおしてみてください。8月16日(月)から再開します。

(写真は、建て替え後の明治安田生命新宿ビルのイメージ=明治安田生命提供)

国内、外資系、オンラインに分類

 生命保険協会に加盟する日本の生命保険会社は42社あります。内訳としては国内生保、外資系生保、オンライン専業生保の三つに分類できます。国内生保は歴史の古い総合型の会社が多く、一般的に日本生命第一生命、明治安田生命、住友生命かんぽ生命 T&Dフィナンシャル生命富国生命朝日生命ソニー生命の9社が大手と呼ばれます。外資系は医療など特定の分野に強い会社が多く、メットライフ生命アフラック生命、プルデンシャル生命保険などがあります。オンライン専業としてはライフネット生命、楽天生命、アクサダイレクト生命などがあります。

(写真は、生命保険協会の就任会見に臨んだ住友生命保険の高田幸徳社長=2021年7月16日、東京都千代田区)

相互会社と株式会社

 生命保険会社の形態としては相互会社株式会社の二つがあります。相互会社は保険業法で生命保険業界だけに認められている形態で、契約者が会社の構成員(社員)になります。株式会社は会社法に基づく会社で、株主が会社の所有者になります。相互会社はお互いに助け合うという保険会社の成り立ちの考え方を今も維持しています。株主がいないため利益を契約者だけに還元すればいいので、相互扶助の精神にかなうというわけです。ただ、契約者は多い会社では何百万人といるわけで、意思決定のための社員総会を開くことは不可能です。その代わりとして社員の代表が参加する総代会を開いていますが、経営者と歩調を合わせることが多く、ちゃんとした議論にならないといわれます。つまり、経営のガバナンスがききにくいというわけです。また、株式会社なら株を発行して投資家に買ってもらえば返済しなくていい資金を調達できますが、相互会社では機関投資家に基金を募らないといけないので、資金調達が難しいという問題もあります。21世紀に入って相互会社から株式会社に変わる会社が出てきて、2010年に第一生命が株式会社に転換した時は大きなニュースになりました。しかし、大手で第一生命に追随する会社はなく、日本生命、明治安田生命、住友生命、富国生命、朝日生命の5社はいまだに相互会社です。

コロナの影響で業績は不透明

 2021年3月期の生命保険会社の業績は芳しくありませんでした。コロナ禍で営業を自粛したり金利低下で外貨建て商品の販売が振るわなかったりしたためです。今期は回復傾向にありましたが、感染力の強い変異株が広がっており、今後の回復は不透明になっています。ただ、生命保険会社は基本的に平均寿命が延びていると死亡保険金の支払いが予定より少なくてすむ傾向にあり、今のところ新型コロナが平均寿命にまで影響するとは考えにくく、資金の運用収益もあるため、大きな落ち込みにはならないとみられています。

行き過ぎた営業活動でトラブルも

 業界では、社会的な批判を浴びかねない商品の取り扱いも課題になっています。ひとつは節税効果があるとして一部の企業経営者に人気だった生命保険商品です。金融庁は節税を主たる目的とした契約は保険本来の趣旨を逸脱しているとして調査を始めています。もうひとつは、外貨建て保険です。購入者に高齢者が多く、為替の変動によって損をするリスクがあることや手数料が大きいことなどを理解しないまま購入したとしてトラブルが発生しています。いずれも営業活動が行き過ぎると社会と摩擦を起こすことを示しており、業界では対策を迫られています。

男性育休取得率が100%

 国内の生命保険会社は生保レディと呼ばれる女性が営業を担っているなど、女性が比較的多い職場です。そうしたこともあり男女ともに働きやすい職場環境を作ることに力を入れています。日本生命では、男性の育児休暇取得率が8年連続で100%となっています。まだ10%にも届いていない会社が多い中、その数字は目立っています。今年6月から育休をとるだけではなく、産後8週以内にとるか、連続10日以上取るか、午後4時の早帰りまたは在宅勤務を3カ月続けるという三つの条件のうちひとつを必ず選ばせるようにしています。

ゆっくり変わろうとしている

 国内の生命保険市場は、長期的にみると人口減少のために縮小していくとみられています。そのため、海外企業を買収したり提携したりする形で海外に進出しています。特にアジア諸国や新興国の市場はこれから大きくなると見込まれ、業界が注目しています。また、自動車保険などの損害保険商品を扱ったり、介護分野に進出したりするなど商品やサービスの幅を広げています。安定した収益が見込める生命保険を軸に新たなニーズがある分野の成長を取り込む戦略です。技術の進展や人口減少で大きな変化の時期を迎えている業界が多い中、比較的ゆっくりと変わろうとしている業界と言えます。

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