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2021年07月02日

ANA・JALがLCC再編 コロナ後へ動き始めた航空業界【業界研究ニュース】

運輸

 新型コロナウイルスの感染が東京を中心に拡大の様相を見せており、第5波が心配される状況になっています。一方で、ワクチン接種が進み、秋以降にはコロナ禍が収束に向かうのではないかという期待も膨らんでいます。コロナ禍で打撃を受けた業界の筆頭格が航空業界です。2019年までは訪日外国人客の増加などで成長を謳歌しましたが、2020年度決算は軒並み大赤字になりました。航空需要を企業努力で取り戻すことは不可能で、各社は様々な手を尽くして雇用を守りながら、コロナ禍が収束したあとを見据えた体制作りを進めています。最も力を入れているのが格安航空会社(LCC)分野の強化です。コロナ後はテレワークが定着したビジネス需要より観光需要が早く回復するとみて、観光需要に強いLCCに力を入れているのです。ANAホールディングス(ANAHD)は新ブランドのLCCを立ち上げることにしており、日本航空(JAL)は中国路線に強い春秋航空日本を子会社にしました。国内の主要航空会社は2021年卒と2022年卒の採用を基本的に見送りましたが、コロナ禍の収束がはっきり見えてくれば2023年卒からは採用を本格的に復活したいと考えているはずです。航空業界に関心のある人は航空会社が描こうとしているコロナ後の姿を研究して下さい。

(写真は、JALとANAの機体=2020年12月、羽田空港)

アメリカの航空会社は業績回復へ

 航空会社の業績はコロナ禍の行方に左右されます。アメリカはワクチン接種が進んでいることから国内の観光需要が増え、航空会社の業績は回復し始めています。7~9月期には黒字転換を見込んでいる会社もあります。アメリカよりワクチン接種が遅れている日本では、航空需要はまだそれほど増えていません。ただ、ワクチン接種が終わった高齢者を中心に夏の旅行需要は増えており、接種が広く進めば日本でも観光旅行に伴う航空需要が一気に回復してくる兆しが見えてきました。

エア・ドゥとソラシドエアが経営統合

 日本の航空業界は、ANAHDとJALの大手2社によって2分されています。ほかにスカイマークスターフライヤーという中堅会社、エア・ドゥソラシドエアなどの地域会社がありますが、この4社はいずれもANAHDが出資し、提携関係にある会社です。北海道を拠点にするエア・ドゥと九州・沖縄が拠点のソラシドエアは、2022年10月をめどに共同持株会社をつくることで基本合意しています。経営統合によって業務を効率化してコストを減らそうという狙いです。

(写真は、JALが出資するLCC3社の機体=2021年6月、成田空港)

国内のLCCは大手2社の傘下に

 こうした中堅・地域会社とは別にLCC各社があります。大手2社は、コロナ禍からの回復が早いのは観光需要だとみて、主に観光客が利用するLCCの分野を強化しています。ANAHDは子会社のピーチ・アビエーションに加えて、2022年度後半から2023年度前半の就航を目指して100%出資の新ブランドのLCCを立ち上げると表明しています。JALは2021年6月末に中国系のLCCである春秋航空日本を子会社化しました。これまでは株式の約5%だけだった出資比率を67%まで引き上げ、経営権を握りました。ほかにも豪州系のジェットスター・ジャパンに50%を出資しています。2020年には、日本では珍しくハワイ路線など中長距離の国際線も手がけるLCC、ジップエア トーキョーを100%子会社として就航させました。両社からは独立していたエアアジア・ジャパンはコロナ禍で破産したため、国内のLCCはすべて2社の傘下に入り、勢力図がはっきりしてきました。

コンテナ不足で貨物が伸びる

 コロナ禍の航空業界で健闘しているのが貨物です。ANAHDは2021年3月期の決算で国際貨物事業の売上高が前期から約6割増え、1605億円と過去最高になりました。JALも2021年3月期の貨物郵便事業の売上高が前期から約4割増え、1288億円と再上場後で最高になりました。世界の貿易量がコロナ禍でも増えているところに、世界的なコンテナ不足で海上輸送から航空輸送に切り替える動きが出たためです。国際航空運送協会(IATA)によると、世界の航空会社の売上高に占める貨物比率は、2019年の12%から、20年は34%に増えました。ただ、貨物の伸びはコロナ禍で港湾作業が停滞してコンテナ不足になったという一時的な要因が大きく、業績の本格的な回復には旅客需要の回復が必要であることははっきりしています。

燃料の転換が課題に

 航空業界の長期的な課題としては、地球温暖化を防ぐための二酸化炭素(CO₂)の排出量の削減があります。今の航空機の燃料は石油を精製してつくるジェット燃料で、旅客1人当たりで計算した二酸化炭素排出量は鉄道やバスなどに比べてかなり多くなっています。ANAHDとJALはともに「2050年の排出量の実質ゼロ」という目標を打ち出しています。そのためにごみや植物などからつくられ環境にやさしいとされる「持続可能な航空燃料(SAF)」の導入を進めることにしています。ただ、コストや品質など改善すべき点は多く、目標のハードルは決して低くないと思われます。

(写真は、機体の翼部分にSAFを給油するANA機=2020年11月、羽田空港)

航空業界のリスクを覚えておこう

 人が遠距離を移動するために航空業界はなくてはならない業界です。しかし、世界ではコロナ禍に耐えきれず、倒産したり合併したりした航空会社が少なくありません。日本の航空会社の多くは、コロナ禍が収束すれば必ず需要が回復すると信じ、社員を他の業界に出向させるなどして耐えています。ワクチンが効果を発揮してコロナ禍が収束するまでもう少しの辛抱だと思われます。航空業界は基本的に成長産業ですが、感染症、戦争、テロなどによって業績に大きなダメージを受けるリスクのある業界でもあります。航空会社に関心のある人は、こうした業界事情も踏まえて企業研究を深めてください。

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