業界研究ニュース 略歴

2020年11月06日

出版社、反転攻勢の兆し 電子書籍伸びて市場拡大へ!?【業界研究ニュース】

マスコミ・出版・印刷

 長く市場の縮小が続いていた出版業界ですが、ここにきて下げ止まったと思わせる数字が出ています。全国出版協会・出版科学研究所によると、2019年の紙と電子をあわせた出版物の推定販売金額は前年比0.2%増の1兆5432億円でした。前年比でプラスになったのは、電子出版の統計を取り始めた2014年以来初めてでした。さらに2020年上半期(1~6月)の紙と電子をあわせた推定販売金額は前年同期比2.6%増の7945億円となり、伸び率は2019年よりさらに大きくなっています。新型コロナウイルスの影響で巣ごもり需要があったという特殊事情もありますが、2019年以来続いている傾向は、電子出版物の伸びが大きくなり、紙の書籍や雑誌の減り方が小さくなるというものです。もう少し様子を見ないとはっきりしたことは言えませんが、出版市場の縮小が底を打った兆候のようにも見えます。

(写真は、図書館のタブレットで電子書籍を読む利用者=2017年、徳島市)

電子出版は28.4%も伸びる

 国内出版物の推定販売額のピークは1996年の2兆6564億円でした。以来ずっと減少傾向が続き、2018年には1兆5400億円と、ピークの半分近くまで減りました。書籍、雑誌、コミックのいずれも減りましたが、中でも雑誌とコミックの落ち込みが大きくなりました。インターネットに時間を奪われたことが主な原因でした。このため出版業界でも電子出版に力を入れ始め、2014年からは統計上でも電子出版を分けて表すことになりました。2020年上半期で見ると、書籍や雑誌などの紙の市場は前年同期比2.9%マイナスですが、電子出版は28.4%増と高い伸びを示しています。出版市場全体に占める電子出版の割合は22.2%と初めて2割を超えました。

電子コミックが伸び、電子雑誌は減る

 電子出版物の中でもっとも伸びが大きいのが電子コミックで、2020年上半期では33.4%も伸びました。次いで、電子書籍が15.1%増、電子雑誌は17.8%減でした。電子雑誌は減っていますが、出版社はニュースや読み物を掲載したサイトに力を入れています。文春オンライン、東洋経済オンライン、デイリー新潮、ダイヤモンド・オンライン、朝日新聞出版のアエラドットなどが多くのアクセス数を得ています。こうしたサイトは主に広告に頼っていますが、紙や電子の雑誌の売り上げ減をカバーする格好になっています。

知名度の割に規模は大きくない

 出版業界には、出版物をつくる出版社、書店との仲立ちをする取次会社、書店があります。また、出版社に記事などのコンテンツを納入する編集プロダクションもあります。出版社は日本に約3000社あります。市場規模が1兆5000億円程度ですので、1社平均の売上高は5億円となります。中小企業が多いことが分かります。売上高の大きいのは、KADOKAWA講談社集英社学研ホールディングス小学館の順になっています。このうち、上場企業はカドカワと学研ホールディングスの2社であとの3社は上場していません。売上高は最も大きいカドカワでも2000億円余りで、残り4社は1000億円前後です。知名度が高い割に会社の規模は他業種に比べると大きくありません。

書店数は2万から1万に減

 取次会社は、日本出版販売(日販)とトーハンが2大勢力となっています。ほかの取次会社を規模で大きく引き離しています。出版市場の縮小に伴って、取次会社も逆風が続いています。書店は20世紀末には全国に2万店以上あったのですが、現在は1万店ほどに減っています。広域に展開する大規模書店が増え、町の書店が減っているという構図です。編集プロダクションは小規模なところが大半です。出版業界は人材が比較的流動する業界ですので、プロダクションから出版社にうつる場合もあります。

(写真は、書店の入り口に張り出された閉店のお知らせ=2020年6月19日、静岡市葵区)

何をしたいのかを固めることが大事

 出版業界は、本や雑誌の好きな人にとってはあこがれの業界だろうと思います。業界の落ち込みが下げ止まったとすれば、なおさら働きたいと思う人がいるでしょう。ただ、会社の規模はあまり大きくないので、採用人数は決して多くありません。必然的に競争率は高くなります。また、給料が高く福利厚生もしっかりしている会社もあれば、待遇面は期待できない会社もあり、さまざまです。また、大手の総合出版社を除けば、文芸に強い、教育に強い、コミックに強い、ファッションに強いなど、出版社によって力を入れている分野が違います。本や雑誌が好きだからというだけで漠然と志望しているようではうまくいかないと思います。出版社で自分は何をしたいのかをしっかり固めたうえで、志望企業を絞るのがいいと思います。

◆人気企業に勤める女性社員のインタビューなど、「なりたい自分」になるための情報満載。私らしさを探す就活サイト「Will活」はこちらから。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別