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2020年11月20日

地銀再編が加速 「安定」から「変化」の時代へ【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 菅政権が誕生し、地方銀行再編の動きが急加速しています。地銀再編が携帯電話料金の引き下げなどと並んで菅政権の目玉政策になっているためです。地方銀行の経営は徐々に苦しくなっています。日本銀行マイナス金利政策のため貸出金利と預金金利の差である利ざやが小さくなっているうえ、地方の資金需要は少なくなっており、利益が出にくい構造が続いているためです。一方で、地方銀行は全国に101行あり、バブル崩壊を経てもあまり減っていません。菅政権は、規模の小さい銀行が狭い地域で競争していては生き残りが難しく、統合合併で数を減らして規模を大きくすることが生き残る道だとみて、再編を後押しする制度を整えつつあります。地方銀行は安定した就職先として地方では魅力的な存在でしたが、これからは安定より変化がキーワードになりそうです。

(写真は、包括的業務提携を結んだ静岡銀行の柴田久頭取〈左〉と山梨中央銀行の関光良頭取=2020年10月28日、東京都千代田区)

ひとつの県でふたつの地銀が競合

 地方銀行は、狭い地域を中心に活動する銀行です。業界団体は全国地方銀行協会(地銀協)と第二地方銀行協会(第二地銀協)の二つがあり、地銀協は以前から地方銀行だった銀行が加盟し、加盟銀行は「第1地銀」ともよばれます。第二地銀協はかつて相互銀行だった銀行が加盟しています。地銀協加盟の銀行の方が、規模が大きいのが一般的で、地銀協に63行が、第二地銀協に38行が加盟しています。かつてはひとつの県に地方銀行と相互銀行がすみ分けて存在していることが多かったため、同じ地方銀行になった今も地銀協加盟の銀行と第二地銀協加盟の銀行が同じ県で競合しているケースが多くなっています。

金利収入が減り、業績が悪化

 地方銀行96行の2020年9月中間決算を朝日新聞が集計したところ、最終的なもうけを示す純利益は6割の銀行で減益赤字になりました。東北の13行中8行、関東の15行中11行が減益か赤字でした。長年の低金利で金利収入が減り続けているうえ、新型コロナウイルスの影響で融資先の倒産などに備える費用が増えて、業績を押し下げています。2020年3月期決算でも、7割の地方銀行の純利益が減益か赤字になっており、業績悪化の傾向は新型コロナ以前から続いています。

政府と日銀が立て続けに再編の支援策

 政府と日銀は地銀再編に向けた支援策を立て続けに打ち出しています。政府は、合併を進めやすくするために独占禁止法の適用除外とする特例法を11月27日に施行します。また、経営統合などに取り組む地域金融機関に補助金を出す制度を来年夏にも始めます。日銀は、統合や経営効率の改善を決めた地域金融機関に資金を出す新制度を始めました。2022年度までの3年間、地方銀行などが日銀に預ける当座預金の利子を0.1%上乗せするもので、すべての地方銀行と信用金庫がこの制度を使えば、日銀から地域金融機関にわたるカネは年間500億円にもなります。

ユニークな「地銀連合」構想

 地方銀行の再編はすでに動き出しています。長崎県の十八銀行親和銀行は10月に経営統合しました。静岡銀行山梨中央銀行は10月に包括業務提携を結びました。来年5月には三重県の三重銀行第三銀行が経営統合します。また、ユニークな動きとしてはネット金融大手のSBIホールディングスの「地銀連合」構想があります。SBIが地銀に出資して提携し、SBIが有価証券運用を引き受けたり金融商品の販売で共同店舗を運営したりするものです。すでに島根銀行福島銀行筑邦銀行(福岡)、清水銀行(静岡)、東和銀行(群馬)の5行に資本業務提携は広がっており、SBIは「10行まで増やしたい」としています。

地銀の役割はより大きく

 菅政権が発足してまだ2カ月ちょっとですが、地方銀行の再編に関するニュースが増えています。再編の本番はまだまだこれからでしょう。バブル期に13行あった都市銀行は5行に集約されました。3行あった長期信用銀行はすべてなくなりました。101行も残った地方銀行は確かに多すぎるのかもしれません。ただ、地方銀行が地方にとってなくてはならない存在であることは間違いありません。都市銀行ではすくえない地方のニーズをくみとり、お金を回していくのは地方銀行や信用金庫の役割です。地方の経済が疲弊している中、その役割はより大きくなっています。再編で名前が消える地方銀行は少なくないでしょうが、仕事自体はなくなることはありません。それを忘れなければ、激動期の地方銀行を志望することをためらう必要はないと思います。

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