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2020年07月17日

石油元売り3社、「総合エネ企業」へ脱皮なるか【業界研究ニュース】

エネルギー

 日本の石油元売り業界は、ここ40年来再編を進めてきました。「石油の時代」がじわじわと終わる流れが見えていたためです。その結果、今や3社に集約されています。しかし、再編の余地も小さくなり、いよいよ本格的に「脱石油」にかじを切らないといけなくなっています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で石油の消費が落ち、業績が悪化していることも、脱石油の動きに拍車をかけています。業界最大手のENEOS(エネオス)ホールディングスの大田勝幸社長は朝日新聞のインタビューで「石油需要の減り方は想定より早いかもしれない」「厚みがある事業を複数持つことが生き残るには必然」と言っています。事業としては、水素再生可能エネルギーの分野に力を入れています。石油元売り企業から「総合エネルギー企業」に脱皮しようとしているのです。思惑通り脱皮できるかどうか、注目されます。

(写真は、出光興産北海道製油所のシーバースに着桟したタンカー=2019年1月1日、苫小牧西港沖、出光興産北海道製油所提供)

再編があるとすればコスモの行方

 石油元売り業界は1980年代には10社以上ありましたが、合併統合が徐々に進み、現在はエネオスホールディングス(5月までの社名はJXTGホールディングス)、出光興産、コスモエネルギーホールディングスの3社になっています。売り上げが最も大きいのはエネオスで2020年3月期で10兆円余り。次いで出光が6兆円余り。3番目がコスモで2兆7000億円ほどです。エネオス、出光に比べてコスモの企業規模が小さく、再編がまだあるとすればコスモがどうなるのかが焦点になります。

(図は2018年7月の朝日新聞に掲載したもの。「JXTGホールディングス」は現在の「ENEOSホールディングス」)

コロナ禍で経営環境の厳しさ続く

 石油元売り会社の業績は、石油の値段に大きく左右されます。石油の値段が下がると、在庫で持っている石油の評価が下がりますし、ガソリンなどの石油製品の利幅も小さくなりますので、利益が圧縮されます。ひどいと赤字になります。今のコロナ禍では、飛行機用のジェット燃料や自動車用のガソリンなど、石油製品の需要が激減しています。一方で、原油の生産はあまり落ちなかったため、原油価格が大幅に下がりました。このため、石油元売り会社の業績は悪くなりました。20年3月期決算では、エネオスが純利益の段階で1879億円もの赤字になり、出光もコスモも200億円を超す赤字になりました。現在は産油国が生産量を落としたため原油価格が一時よりは上がり、石油元売り会社の在庫の評価損が小さくなっています。しかし、石油製品の需要が落ちている状況は変わらず、経営環境の厳しさは続いています。

エネルギー関連事業を強化

 これからの国内の石油需要については、各社とも2040年には今の半分になるという想定を明らかにしていますが、大田社長(写真)は「減り方は想定より早いかもしれない」と危機感をあらわにしています。対策は、石油製品の精製、販売という主力事業以外のエネルギー関連事業の強化です。エネオスでは、三つの柱を挙げています。ひとつは水素です。水素は燃料電池と組み合わせると高いエネルギー効率をあげる燃料になります。将来は燃料電池車がたくさん走る可能性があります。このため水素を作り、水素ステーションを全国に展開する事業を始めています。二つ目は再生可能エネルギーです。エネオスでは太陽光発電メガソーラーを全国18カ所に作っています。三つ目は天然ガス事業です。天然ガスは石油より二酸化炭素(CO₂)を出す量が少ないので、化石燃料の中では環境に優しい燃料です。天然ガスを使った火力発電事業で電力分野に参入しています。出光やコスモも目指す方向は同じです。出光は再生可能エネルギー分野で地熱発電バイオマス発電などにも力を入れています。コスモは風力発電に力を入れているのが特徴です。

石油業界ではなくエネルギー業界

 毎年のようにある豪雨災害などをみても、多くの人が地球温暖化の脅威を感じていると思います。環境問題はこれからいっそう大事なテーマになってきます。二酸化炭素の排出を抑えるためには石油などの化石燃料の消費を減らさないといけません。一方で人間が快適に暮らすにはエネルギーが必要であることは変わりません。エネルギーの供給事業にはまだまだ大きな可能性があります。国内だけでなくアジアなどの発展途上国も視野に入れれば、可能性はさらに大きくなります。明るい話題の少ない石油元売り業界ですが、石油以外のエネルギー供給分野で大きな花を開かせることができるかもしれません。石油業界という意識を捨てて、エネルギー業界として研究することをお薦めします。

(写真は、東京・有明の水素ステーション=2020年1月29日)

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