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2019年06月28日

伸びる航空機産業 日本は正念場

自動車・輸送用機器

 三菱重工業はカナダの航空機メーカー、ボンバルディア社の小型旅客機「CRJ」事業を買収することで同社と合意しました。三菱は国産初のジェット旅客機「スペースジェット」を開発しており、同じような大きさの小型旅客機事業を買収することで受注の強化につなげようとしています。スペースジェットは日本の航空機産業が自立できるかどうかの大事なプロジェクトですが、これまで納期を5度延期して大きな赤字を出しています。窮地に立っている中で、ライバルメーカーの一部を買収するのは大きな賭けとも言えます。世界の航空機産業は、将来にわたって旅客需要の伸びが見込まれるため成長産業と考えられていますが、アメリカと欧州メーカーが圧倒的に強くなっています。日本としては何とかその一角に食い込みたいところです。しかし、スペースジェットの売れ行き次第では再びアメリカの下請けに甘んじることもありえます。日本の航空機産業は正念場を迎えています。

(写真は、パリ航空ショーの開幕を控え、会場に登場したスペースジェット=パリ郊外 )

国産プロペラジェット機YS11

 日本の航空機産業は戦前までは軍用機を中心に盛んでした。しかし、敗戦後、進駐軍の指導の下、製造が禁止されました。1952年になって再開されましたが、禁止期間に技術が失われたことやアメリカへの配慮もあって日本の航空機メーカーは基本的にアメリカメーカーの下請け仕事をしてきました。唯一、1960年代にプロペラ旅客機 YS11ナショナルプロジェクトとして製造し、国内外に販売しました。しかし、それもジェット旅客機の時代になり、製造は中止となりました。

(写真は、最終フライトを終えたYS11=航空自衛隊小牧基地、2017年)

5度納期を延期し名前変える

 国産初のジェット旅客機を製造する事業は、2008年に三菱重工業が始めました。MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)の名前で、座席数90席程度の小型旅客機です。400機を超える受注を得たものの、設計変更が相次ぎ、納期を5度延期しています。今は2020年の納入を目指し、名前をMRJからスペースジェットに変えて、型式証明をとるためにアメリカで試験を繰り返しています。

ホンダジェットは国産とは言えず

 日本が関係する航空機としては、本田技研工業の子会社であるホンダエアクラフトカンパニーが開発し、製造販売しているホンダジェットがあります。7人乗りのビジネスジェット機なので、主にプライベートジェットとして使われる航空機です。ただ、この航空機は開発も製造もアメリカで行われているため、国産の飛行機とは言えません。

(写真は、ホンダジェット=本田技研工業提供)

ボーイングとエアバスが2強

 世界の航空機産業は、民間航空機メーカーと軍用航空機メーカーに分かれます。民間航空機メーカーは、アメリカのボーイング社とヨーロッパのエアバス社が圧倒的な2強となっています。小型機部門が強かったブラジルのエンブラエル社はボーイングに、カナダのボンバルディア社の主力機部門はエアバス社が買収するなど2強の寡占化が進んでいます。軍用機部門はアメリカが強く、ロッキード・マーチン社、ノースロップ・グラマン社などがありますが、民間航空機部門の2強より規模は小さくなっています。日本の航空機産業は三菱重工業のほか、川崎重工業スバルがボーイング社の航空機の一部を組み立て製造しています。また、IHI、川崎重工業などは航空機エンジンを製造しています。

空飛ぶ乗り物の可能性も

 日本の航空機産業の市場規模は年々伸びていて、今は1兆8000億円ほどになっています。ただ、アメリカに比べると10分の1程度に過ぎません。航空機の需要は今後さらに大きくなることが見込まれます。大型機だけでなく、中規模の都市間を結ぶ小型機の需要も大きくなると考えられます。航空機産業は裾野の広い産業です。大型旅客機になると、300万点もの部品を使います。ガソリンエンジン車で3万点といわれますから、その100倍です。日本にも航空機の完成メーカーが根づけば、部品メーカーを含めた経済効果は大きいものになります。また、これからはまったく新しい空飛ぶ乗り物も出てきそうです。空飛ぶタクシーなどです。欧米の航空機メーカーや自動車メーカーが開発に取りかかっていますが、日本のメーカーにも可能性があります。航空機関系の会社で就活人気が高いのはエアラインですが、航空機を製造する会社にも夢があると思います。

(写真は、「空飛ぶタクシー」向けにボーイングが開発している機体の試作機)

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