「情報銀行」って聞いたことがありますか。個人情報を企業に提供する「銀行」のことです。政府が新しい制度を作ったため、企業の関心が高まっています。膨大な個人情報をビジネスに使えば、さまざまなきめ細かいサービスが提供できるようになりますが、個人情報を企業同士が勝手にやりとりして利用することは許されません。だったら個人の同意を得た場合のみ利用できるきちんとした仕組みを作ればいいだろうという発想です。2018年度中にも業界団体が認定する「情報銀行」第1号が生まれるものと見られます。データを使うサービス開発はアメリカや中国が先行しています。日本も遅れてはならないということで情報銀行業という新しい業界が生まれようとしています。
(写真は、三菱UFJ信託銀行が、「情報銀行」の実用化に向けた実証実験で使うセンサー付きのスポーツシューズ=2018年10月15日、千葉・幕張)
個人情報のジレンマ解消
膨大な個人情報があれば、それを分析することで新しい商品やサービスの開発に生かせます。ただ、個人情報を勝手に利用することには問題があります。2013年にJR東日本が「Suica」の乗降履歴などを日立製作所に提供したことが分かり、利用者らからの苦情が殺到しました。個人情報の企業による利用には世界的に規制が強まっていて、明確な本人同意が必要というのが流れです。個人情報を使いたい、でも勝手に使えないというジレンマを解消するのが「情報銀行」です。
(写真は、Suicaで自動改札機を通る。2017 年12 月末現在のSuicaの発行枚数は、約6801万枚)
個人にもポイントなどのメリット
情報銀行は、買い物履歴とか健康情報とかさまざまな個人情報を集めます。集めた個人情報を「銀行」のように預かって、企業に「貸し出し」、企業からは「利子」のように対価を得るというビジネスモデルです。ただし、その個人情報のうちどんなものをどの企業に提供するかを決めるのは個人です。提供に同意した個人には提供先からサービスやポイントが受けられることで、個人にもメリットを与えます。こうした仕組みをきちんと作り上げた企業には、業界団体の「日本IT団体連盟」が情報銀行と認定し、実際の業務を始めることができます。
説明会には200社が参加
すでに多くの企業が実証実験を始めています。中部電力や、旅行大手のJTBは印刷大手の大日本印刷(DNP)と組んで、スタートしています。中部電力は、同意を得た利用者から集めた電気使用量や家族構成、体重、身長などを分析、商業施設を運営する2社に提供し、2社はそれぞれが好みそうな商品やセール情報をメールで提案します。JTBは、旅行者がスマートフォンに登録した個人の情報や旅行の日程を、本人の同意を得て飲食店や小売店などに提供、店側は旅行社に割引券を送るなどの働きかけができるようにします。他にも電通はすでに情報銀行を手がける子会社を設立したり、三菱UFJ信託銀行はシューズを履いてもらって得られた情報をスポーツクラブや保険会社などに提供する実験をしていたりします。10月に総務省と日本IT団体連盟が開いた説明会には電機や金融などの約200社が参加し、企業の関心は高まっています。
(写真は、JTBとDNPが3日から実証事業を始めた観光に特化した「情報銀行」のスマホ向けアプリのイメージ。旅行のスケジュールを記録すれば、お店の割引券などが得られる=DNP提供)
まったく新しい業態
ITの発達はさまざまな新しい業界を生んでいます。フリマアプリ業界とかキャッシュレス決済業界などが盛り上がっていますが、こうした新業態はリアルな世界であったものをスマホの中で行う手軽さがうけているもので、まったく新しく生まれた業態とは言えません。ただ、情報銀行はこれまで流通しなかった個人情報を、大手を振って流通させるというまったく新しい業態です。始めてみると課題がいろいろ出てくるかもしれません。どこまで大きなビジネスになるかはまだよく分かりませんが、可能性に注目したいと思います。