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2018年07月25日

「再エネシフト」電力業界でも加速!?

エネルギー

 遅ればせながら日本でも本格的に再生可能エネルギーに力を入れるムードが出てきました。元経済産業省の官僚で国際エネルギー機関(IEA)事務局長を務めた田中伸男氏が都内でした講演が朝日新聞の記事になっています。田中さんは原子力発電推進派として知られていますが、「原発の新増設は、コスト面でとても競争力を持てない」と率直に話したのです。太陽光発電など再生可能エネルギーのコストがどんどん下がっているのに、原発は安全対策などでコストが高くなる一方です。田中氏が講演をした同じ日、東京電力の小早川智明社長は日本経済新聞のインタビューに答え、これからは再生可能エネルギーにかじを切る方針を示しています。原発には人々の反発があり、化石燃料には環境への強い懸念があります。これまでコスト面で難があった再生エネルギーですが、コストが下がればもっとも受け入れられやすいエネルギー源になります。原子力、化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトがここにきてはっきりと出てきつつあるのは間違いありません。

(写真は、元国際エネルギー機関事務局長の田中伸男さん)

「原発も再エネも」の新計画

 政府は今、第5次エネルギー基本計画を作っています。すでに素案ができ、2030年度に目指す電力量に占める割合を原発は20~22%、再生可能エネルギーは22~24%としています。これは4年前につくった計画と同じです。「原子力は重要なベースロード電源」「再生可能エネルギーは主力電源化へ布石を打つ」といった表現もあり、原子力も再生可能エネルギーもともに大切な電源とするというメリハリに欠ける内容になっています。

(写真は、約6年半ぶりに再稼働した九州電力玄海原発4号機=2018年6月16日)

世界の再エネシェアは2040年に40%

 世界は大きく変化しています。IEAの報告書では、再生エネルギーのコストは、2017~2022年にかけて太陽光で4分の1、陸上風力で8分の1、洋上風力で3分の1下がり、いずれ再生可能エネルギーの発電コストは化石燃料を下回ると予想しています。また、原発の発電コストは安全対策のために上がり、廃炉費用や事故のリスクまで加味すると、かなり高いものになっています。IEAは、世界では2040年には再生可能エネルギーが2016年の2.6倍になり、電力量に占める割合は40%になるとみています。そのとき、化石燃料は50%、原子力は10%という見立てです。中国やインドでは太陽光発電が主力になり、欧州では風力発電が大きく伸びるとしています。

(写真は、静岡県浜松市でソフトバンク子会社などが運営する大規模太陽光発電施設<メガソーラー>)

再エネはほどほどに

 2011年の東日本大震災後、日本の電力環境は大きく変わりました。原発をどんどん増やしていくという路線は終わり、ほとんどの原発が止まりました。その分、火力、太陽光、風力を増やし、省エネも進めてカバーしてきました。ただ、電力会社や経済産業省などは、それでも30基ほどの原発の再稼働を目指し、太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーはほどほどに力を入れていたに過ぎません。それが、世界の流れよりずいぶん緩やかな日本の流れになっています。

(写真は、青森県六ケ所村の核燃料サイクル施設の近くにつくられた風力発電施設)

外務省や環境省も再エネ推し

 ただ、電力会社などは、さすがにここにきて30基もの原発の再稼働は国民の意識から現実的ではないと考え始めたようです。しかも民間会社としてもっとも重視するのは発電コストですが、それが再生可能エネルギーのほうが安いとなれば、積極的に再生可能エネルギーに取り組もうという機運につながります。経済産業省はまだ方針変更の姿勢を見せていませんが、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」を所管する外務省は再生可能エネルギーシフトをもっと強めるよう経産省に働きかけているようです。また、環境省も再生可能エネルギーをもっと推進しようという姿勢です。

(写真は、福島県沖で経済産業省が進める浮体式洋上風力発電の実証研究事業。商用化は見通せていない)

殿様商売は「今は昔」

 電力会社は安定した就職先としてかつてはとても人気がありました。3.11以降は先行きが見えにくくなり、人気はやや落ちていますが、まだまだ志望者の多い業界です。特に地方では、経済界の中心的存在であることは変わらず、地元志向の強い人にとってはあこがれの会社かもしれません。ただ、かつての電力会社とは大きく違っていることは認識しておきましょう。巨大設備で発電し独占した地域に利益を上乗せした電気料金を課すといった「殿様商売」は、今は昔です。これからの中心は再生可能エネルギーの小さな発電所から不安定な電気をつくり、それをうまく調整しながら、自分たちの電気を買ってくれる人に売れる値段で売る時代になります。「殿様」ではなくなりますが、仕事のやりがいはこれからのほうがあるかもしれません。考え方次第です。

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