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2018年06月20日

揺れる鉄鋼業界…伝統ある企業の魅力と底力を知ろう!

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 「鉄は国家なり」という言葉がありました。過去形で書くのは、最近はあまり使われなくなったからです。少し前まで、鉄の生産力は国の力そのものだという考えがあり、鉄鋼メーカーのトップが経団連会長を務めるなど、鉄鋼業界は経済界のど真ん中に君臨していました。しかし、20世紀終盤以降、産業構造が重厚長大から軽薄短小に移るにつれ、その地位は低下しました。とはいえ、衰退産業とは言えず、まだまだ底力のある業界です。最近は、アメリカのトランプ大統領が自国の鉄鋼産業を守るため、日本を含む主要な輸出国からの鉄鋼に25%の関税をかけることを発表し、世界の貿易戦争の引き金を引きました。朝日新聞では鉄鋼業界の代表であるJFEスチールの柿木社長のインタビューを掲載しています。柿木社長は「(鉄鋼関税は)非常に怖い。自動車への関税はより怖い」と言っています。トランプ大統領は自動車にも高関税をかける検討を指示しましたが、日本の鉄鋼業界は鉄鋼そのものと鉄鋼を使った製品のダブルで影響を被ることを強く警戒しています。

(写真は、JFEスチールの柿木厚司社長)

自動車関税引き上げは自由貿易崩す

 柿木社長によると、日本の粗鋼生産量は年間約1億トン。国内需要は5000万~6000万トンで、残りを東南アジアなどに輸出しています。アメリカが高関税をかけて世界に保護主義が広がると、だぶついた鉄鋼がどこかの市場に流れ込み、「混乱が生まれる」と指摘しています。また、乗用車1台当たり700~800キロの鉄鋼が使われており、アメリカが自動車の関税を引き上げると、「鉄鋼そのものの関税引き上げよりも影響が大きい」と言います。そして、自動車については、 EU が対抗措置をとると、「世界の自由貿易市場が崩れてしまう恐れがある」と警告しています。

(写真は、G7会場を後にする米国のトランプ大統領)

大企業は高炉メーカー

 鉄鋼メーカーには2種類あります。ひとつは鉄鉱石と石炭から鉄をつくる高炉メーカーで、もうひとつはくず鉄を電気で溶かして鉄をつくる電炉メーカーです。電炉メーカーは、中小企業が多く、企業数もたくさんあります。高炉メーカーは大企業ばかりで、現在日本には、新日鉄住金、JFEホールディングス、神戸製鋼所、日新製鋼の4社があります。戦後しばらくは、八幡製鉄、富士製鉄、川崎製鉄、日本鋼管、住友金属工業、神戸製鋼所、日新製鋼の7社がありましたが、八幡と富士が合併して新日本製鉄となり、この新日鉄と住金が合併して新日鉄住金となりました。また、川崎製鉄と日本鋼管が合併してJFEホールディングスになりました。合併は、国内の鉄鋼需要が頭打ちになる一方、中国など海外の鉄鋼メーカーが力をつけてきたことに伴い、効率化する必要に迫られたためです。また、新日鉄住金は2019年4月に日本製鉄(にっぽんせいてつ)に社名変更します。日本製鉄は戦前の国策会社の社名で、戦後74年たって「ニッテツ」が復活することになります。

(写真は、閉鎖された神戸製鋼所の高炉)

東京五輪後の反動減心配

 日本の鉄鋼業界は、これから大きく伸びる業界とは考えられていません。人口減少の国内では、鉄の需要は伸びません。東南アジアなど海外の需要はまだ伸びますが、中国などとの競争が激しく、日本は押され気味です。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは建設などの特需があるのですが、それを過ぎると反動減が心配されます。

不況への抵抗力つく

 ただ、鉄鋼業界の強みのひとつは、何度もあった不況を乗り越えてかなり筋肉質になっていることです。かつては、少し不況になると、過剰設備と過剰人員が重荷になり、リストラを迫られました。そうした歴史を繰り返したことで、会社はずいぶんスリムになり、鉄以外の製品への多角化も進み、不況への抵抗力がついてきました。

(写真は、JFEスチール西日本製鉄所の圧延工場)

おっとりした社風

 もうひとつの強みは、歴史ある企業として人材、不動産、信用などの資産が豊富なことです。「鉄は国家なり」の時代の残り香があるというわけで、どちらかというと、おっとりしている社風の会社が多いようです。また、労働組合がしっかりしていますので、比較的雇用が安定していますし、福利厚生もちゃんとしています。就活生からみると、IT企業のような伸びゆく若々しい企業が魅力的に映るかもしれませんが、働く人にとっては鉄鋼業界のような伝統ある企業のよさもあるということも指摘しておきたいと思います。

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