中国産レアアース 使わずHVモーター(2016年7月12日朝日新聞デジタル)
ホンダが、ハイブリッド車(HV)を動かすのに必要な磁石を、中国でしか取れないレアアース(希土類)を使わずに世界で初めて実用化したと発表した。レアアースの価格高騰リスクを回避できると期待される。年内に全面改良して売り出すHVミニバン「フリード」から採用を始める。ホンダが大同特殊鋼と組んで開発した。高価な希土類を使わないことで、製造コストも1割減らせ、今後、プラグから充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)などへの搭載も視野に入れる。
中国のレアアース輸出制限で価格高騰
(ホンダの新型HV用モーターに埋め込まれた磁石(黒い部分)には、重希土類「ジスプロシウム」が使われていない=写真)
HV車の駆動モーターには、強力な磁力を持ち、小型化に適した「ネオジウム磁石」が使われています。この磁石は熱に弱く、200度にもなるエンジンルームの温度で性能が低下するため、これまでは耐熱性を補える特性のある希土類の一種「ジスプロシウム」などを添加していました。日本は、このジスプロジウムを中国からの輸入に依存しています。ところが2011年、中国の極端なレアアースの輸出制限で、ジスプロシウムの値段が10倍以上はねあがりました。このため、トヨタのHV車「プリウス」が10万円値上げされるなど大きな影響がありました。
「脱中国」「脱レアアース」の機運
レアアースは希土類と呼ばれる元素のグループで、ジスプロシウムのほかネオジウムやイットリウムなど17種類あります。自動車だけでなくデジタルカメラの光学レンズやハードディスクのガラス基板の研磨剤など応用範囲は多岐に渡っています。かつてレアアースは米国や豪州産もありましたが、安さを武器に中国の寡占化が進みました。それだけに2011年のレアアース高騰は産業界で大騒ぎになったのです。日本や米国、欧州連合(EU)が世界貿易機関(WHO)に協定違反と提訴し、2015年に中国が敗訴して輸出制限や高い関税が取り払われ、現在は安値で安定しています。これに懲りて、「脱中国」「脱レアアース」の取り組みが各分野で進められていたのです。
資源安全保障の努力を知ろう
ホンダと大同特殊鋼は、ナノレベル(10億分の1の単位)で磁石の結晶を加工する特殊な製法とモーターの形状を工夫するなどして「脱レアアース」を実現しました。冒頭の記事によれば、日産も2012年、電気自動車「リーフ」搭載のジスプロジウムを4割減にしたといい、トヨタも「脱レアアースの動きを継続する」とコメントしています。また、空調大手のダイキンは、2015年にオ-プンした「テクノロジー・イノベーションセンター」(大阪府摂津市)で、「新日鉄住金や大坂府立大と共同してレアアースを使わないモーターの開発に取り組む」としています(「新技術、追い風なるか/ダイキン、摂津に開発拠点」2015年11月28日朝日新聞大阪本社朝刊)。「資源安全保障」という言葉があります。食料はじめ多くの資源を輸入に頼る日本は、つねにさまざまな調達リスクにさらされていて、それを乗り越える努力を官民でしていることを就活生のみなさんも知っておいてほしいと思います。