リクシル 6年ぶり赤字転落(2016年5月10日朝日新聞朝刊)
住宅設備大手のLIXIL(リクシル)グループの2016年3月決算の総損益は、186億円の赤字(前年は220億円の黒字)だった。赤字は6年ぶり。日本銀行のマイナス金利政策の影響で金利が低下し、退職金や年金の支払いに備えた積立金の運用が厳しくなった。また、海外の買取先の不正会計や業績不振も影響した。
住宅設備大手のLIXIL(リクシル)グループの2016年3月決算の総損益は、186億円の赤字(前年は220億円の黒字)だった。赤字は6年ぶり。日本銀行のマイナス金利政策の影響で金利が低下し、退職金や年金の支払いに備えた積立金の運用が厳しくなった。また、海外の買取先の不正会計や業績不振も影響した。
リクシルグループは、キッチンやトイレ、バスなど水回りの事業で知られるINAXやアルミサッシ最大手だったトステムが経営統合して誕生したグループです。リフォーム需要や海外事業などで業績を伸ばしてきました。グループのニュースリリース(5月9日)のメインタイトルは「2016年3月期決算:売上高、営業利益ともに成長を持続」となっており、「連結売上高は、前期比10%増の1兆8451億円」と誇っています。しかし、朝日をはじめ多くの新聞が注目したのは、同じニュースリリースにある「当期純利益の赤字」の方でした。当期純利益とは、「その期のうちに臨時の損益を含めて最終的に企業に残るお金」です。業績は伸びても最後に残るお金が赤字では、事業としては順調とはいえないという判断です。
赤字転落の原因としてあげられている海外事業は、バスやキッチンなどの金具の製造販売で中国最大手だったジョウユウ(本社はドイツ)です。不正経理が発覚し破産。六百数十億円もの負債が残りました。大変な失態ですが、ここで注目したいのは、もうひとつの原因である「退職金や年金の支払いに備えた積立金の運用が厳しくなった」方です。日本銀行は今年1月からマイナス金利政策を始めました。このマイナス金利政策が「弱り目」のリクシルにさらに「たたり目」になったのです。
マイナス金利政策は、簡単にいうと銀行が日銀にお金を預けると逆に金利を払うことになり、資金を他に振り向けることで景気を刺激しようという政策です。しかし、影響はそれだけではありませんでした。企業は社員のために退職一時金や年金に使うお金を用意しています。企業は、これを決算で退職給付債務として計上します。このお金を企業は国債や優良企業の社債に回すのですが、将来的にこれらの債券には金利が発生するので、その分をあらかじめ割り引いて回すのです。ところがマイナス金利政策で国債など債権の金利がふっとんでしまい、見込んでいたよりも多くのお金を退職給付債務として計上しないければならなくなりました。先のニュースリリースは「昨年11月2日に修正発表した通期業績予想値をやや下回る結果となった」と指摘、「金利低下の影響などで国内の退職金給付債務にかかる数理差異が108億円のマイナス影響」と書いています。
この退職給付債務へのマイナス影響は、リクシルグループだけではなく大半の企業が受けています。「アベノミクスってなんなのだろう」とぼやく各企業の会計担当者の顔が浮かぶようです。政府・日銀の金融政策の舵取りの難しさが、ここにあります。新聞記事から政治と経済の結びつきにも目を向けてください。
2024/10/11 更新
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