コラボしよう 地域の足、人もモノも運ぶ(2016年1月5日朝日新聞朝刊)
黄色い派手なラッピングを施した大型バスが、JR盛岡駅前に姿を現した。岩手県の盛岡市から宮古市まで約100キロを結ぶ路線バスだが、乗せるのは人だけではない。宅配便の荷物も載せて走る客貨混載バス、通称「ヒトものバス」だ。
■10席を撤去し、荷台スペース
宅配便大手のヤマト運輸(東京)と、岩手県北部が営業エリアの岩手県北バス(盛岡市)がタッグを組んで、昨年6月に運行を始めた。1日片道1便。道路運送法を弾力運用することで実現した全国初の試みだ。
目のつけどころはこちら
「コロンブスの卵」という言葉があります。アメリカ大陸「発見」は誰でもできたとバカにされた冒険家のコロンブスが「ではこの卵を机に立ててみてください」と言い返した。しかし、誰も立てられない。彼は卵を手にとると、その尻をつぶして机に立ててみせた――「簡単そうに見えても、一番最初にやるのは難しいものだ」という格言です。ビジネスとは、まさにこの「コロンブスの卵」をどう立てるかが問われる世界でもあります。
今回とりあげた記事も「卵」を立てた話といえそうです。路線バスで荷物も同時に運ぶという、一見なんということのないアイデア。ですが、路線バス側は過疎化で危ぶまれていた運行継続にめどがたち、運輸会社はトラックを長距離走らせる必要がなくなり効率的に荷物を運べ、他のサービスにも注力できる。復興工事のため運転手が不足していた問題も解決でき、温室効果ガス削減にもつながる――と一石何鳥もの効果が見込めるのです。反響が大きいのもうなずけますね。
今回のコラボはヤマト運輸側がもちかけたそうです。では彼らが「コロンブスの卵」を立てられた要因はどこにあるのでしょうか。トラックやバスの運転手不足、温室効果ガス削減要請といったプレッシャーがアイデアに結びついたという点にくわえ、記事中にある「道路運送法を弾力運用した」という点にも注目です。いまの日本の法律では、貨物をはこぶトラックと人を乗せるタクシー、バスは役割がはっきり分かれていて、トラックが人を運んだりバスが貨物を運ぶことは原則禁止されています。ただ、バスやタクシーを規制する道路運送法の82条には「旅客の運送に付随して、少量の郵便物、新聞紙その他の貨物を運送することができる」とあり、今回はこの条文を運用したとみられます。今回の記事をきっかけに、皆さんもぜひ「自分ならどうコロンブスの卵を立てるか」を考えるくせをつけてください。
今回のケースはあくまで「例外」となっていますが、これからますます過疎地が増えて公共交通サービスが維持できなくなっていく中で、トラックに人を乗せたりタクシーに物を乗せたりできるように法規制そのものを見直そうという動きも出ています。これには、トラックに人を乗せるために安全面での配慮がさらに求められコストが増えるという可能性もありますね。ひとつのニュースについて考えるときには、メリットとデメリット両方の視点からみるようにすると思考の幅が広がりますよ。