メール便廃止「批判覚悟の決断」 ヤマトHD・山内雅喜社長 (2015年6月12日朝刊)
ヤマトホールディングスの山内雅喜社長は朝日新聞の取材に応じ、3月に「クロネコメール便」をやめた理由について「顧客が犯罪者になるのを防ぐためだった」と語り、サービスの廃止で不便を被る顧客からの批判も覚悟の決断だったことを明らかにした。
年間約20億通もの取り扱い実績があったクロネコメール便の廃止について山内氏は「(総務省に)我々の主張が認められなかった」と説明。要望していた信書便規制の緩和が2014年3月に認められなかったことが要因と強調した。メール便では送れない手紙などの「信書」を顧客が送ってしまい、郵便法違反に問われる危険があるからだ。
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会社に入ったら、みなさんはまずどんな仕事をすると思いますか? 世間をあっと言わせる企画の立案? 手練手管(てれんてくだ)を尽くした営業? それもあるかもしれませんが、最初にやるのは雑用です。「なんだ雑用か」と思ってはいけません。大きな仕事をなしとげる人の多くは雑用に手を抜かず、クリエーティブにこなしています。ミドリムシ事業で急成長中の「ユーグレナ」創業者の出雲充(みつる)社長は銀行の新入社員当時、店のATMにいかに効率的に札束を詰めるか、どのタイミングで札束を補充すれば札切れが起こらないか、客の流れや曜日による傾向をチェックしていつも考えていたそうです。雑用にこそ、仕事で必要な観察力や気づきの力を養うヒントがあります。
会社での雑用の一つに郵便物の送付があります。いまどきはインターネットでのやりとりが主流とはいえ、取引先に請求書や資料を送ったり顧客にダイレクトメールを送ったりと、まだまだ郵便は重要な仕事のツールです。そんな時によく活用されていたのが、「クロネコヤマトの宅急便」でおなじみヤマト運輸が手がけていた「メール便」サービス。A4サイズのチラシやパンフレットなどを全国どこでも82円から配達するもので、手渡しが基本の「宅急便」とは違い郵便受けに直接投函する仕組みでした。
料金が安いため利用数は年々増え年間20億通にも達していましたが、2015年3月にサービスは廃止されます。理由は「信書」を送ってしまう危険性があるから。信書とは「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」というややこしい定義がありますが、要は手紙のことです。郵便法という法律により、信書をメール便などで送ることは禁止されており、違反すると刑事罰に処せられます。メール便は中身の確認ができないため信書を送ってしまう可能性もあり、ヤマト運輸の親会社であるヤマトホールディングスの山内社長は批判も覚悟で廃止を決断したとインタビューで語りました。現在、信書の配達はほぼ日本郵便が独占しています。
「なんでそんな規制があるんだ!」と思う人も多いでしょう。手紙は一定の料金で全国どこでも必ず届けるという義務があります。民間業者が無制限に入ってきてしまってはこの仕組みが崩れてしまう恐れもあるので、規制がかけられているわけです。といっても、日本郵便はすでに民営化された企業。国がどこまで一企業を守る必要があるか、議論がわかれるところですね。ちなみに日本郵政の西室泰三社長はヤマトのメール便廃止に際して「経費のかかる部分をやめた。作戦の転換だ」と指摘。ヤマトの山内社長は記事のインタビューで「メール便のために追加でかかるコストはほとんどなく、利益も出ていた」と反論しています。
ヤマトは4月から、法人向けに「ネコポス」というメール便とほぼ同じ料金設定のサービスを始めました。一方、個人向けのサービスは「宅急便」に移行したため料金が割高に。それを狙ってか、日本郵便は3月からA5サイズの専用封筒で重さ1キロ以内のものなら180円で配達する「スマートレター」というサービスを開始。セブンイレブンや日本郵便と提携するローソンは専用封筒の販売を始め、メール便から離れた個人客の受け皿にしようとしています(こちらは信書も送れます)。日本郵便にはほかにもA4サイズで4キロまでのものを送れ、配達状況の追跡もできる「レターパック」、信書は送れないが3キロまでの印刷物などを送れる「ゆうメール」などのサービスがあります。こういった輸送サービスの現状やそれぞれの特徴、今後の流れをおさえておくことは運輸業界を目指す人はもちろん、社会人の基礎ともいえる雑用力をアップさせることにもつながるでしょう。