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2015年05月19日

武田は赤字、アステラスは売上最高--製薬業界に何が?

医薬品・医療機器・医療機関

製薬大手6社、営業損益悪化 15年3月期決算(2015年5月16日朝刊)

 製薬大手8社の2015年3月期決算が15日出そろい、営業損益は6社が前年より悪化した。国の後押しで、安い後発(ジェネリック)薬のシェアが伸びた影響が大きい。武田薬品工業は米国での訴訟和解金などで、純損益が上場以来初めて赤字になった。

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 「就活ニュースペーパー」の「今日の朝刊」でも何度かとりあげていますが、5月は企業の決算発表がピークを迎える時期です。今日はそのうち、医薬品業界の大手8社の決算をまとめた記事をとりあげます。

 トピックの1つは記事にあるとおり、業界トップの武田薬品工業が1949年の上場以来はじめて赤字となったことでしょう。1999年に発売したかつての主力薬「アクトス」(糖尿病治療薬)に対し米食品医薬品局が、長期間服用することで膀胱がんになる可能性が高まると指摘。集団訴訟の対象となり、和解金や訴訟関連費用など約3200億円を引当金として計上せざるを得なくなりました。これまでの判決では7件中5件で両者の因果関係はないと結論づけられるなど武田薬品にとっては有利な流れでしたが、訴訟を長引かせては企業イメージの悪化につながると和解に踏み切ったのです。

 製薬業界は長らく参入障壁の非常に高い業界として知られていました。薬は1つ開発するのに10年以上かかることはざらで、それだけの期間の投資に耐えるだけの体力が求められます。薬を販売できるようになるには公的機関による厳格な審査を経る必要もあり、新規参入は容易ではありません。
 参入障壁が高いということは、それだけ業界全体が安定して高収益を得られる構造でもあったということです。2014年版「業界地図」(東洋経済新報社)によれば、医薬品業界の「40歳平均年収」は836万円と全業種平均(660万円)を大きく上回っています。冒頭の記事にあるように武田薬品工業が1949年以来これまで赤字に一度も転落しなかったのは、そういった業界環境のおかげともいえるでしょう。

 ただ、状況は急激に変化しています。最も大きな変化は、特許が切れた薬をより安価に販売するジェネリック薬の普及。日本政府は医療費抑制のためにジェネリック薬の普及を推し進め、財務省は社会保障費抑制のため2017年度までにジェネリック薬の普及目標を「8割」にするよう提言しています。

 2010年前後に多額の売り上げを得ていた医薬品が相次いで特許切れとなり、製薬各社は新たに業績を引っ張るような「ブロックバスター」(売上年間1000億円を超える大型新薬)を社運をかけて探しています。ただ、患者の多い分野は世界的にすでに薬ができており、新薬の可能性があるのは作るのが難しいわりに市場の小さい病気がほとんど。ジェネリックの普及で売上が圧迫され、新薬開発の体力が削られていけば業界の未来も決して明るいものとは言えなくなります。

 そんな中、売上高過去最高を記録したのは業界2位のアステラス製薬。もともと得意の泌尿器、移植・免疫分野にくわえて第三の領域に位置づけたがん領域が成長。2012年に発売された前立腺がん治療薬「エクステンジ」が海外で売上を大きく伸ばし、国内医療用医薬品の売上減をカバーしました。2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生。傷消毒薬「マキロン」や水虫薬「ピロエース」など知名度の高い一般向け医薬品も扱っていましたが2006年にその部門を売却し、医療用医薬品開発に完全に特化した会社となりました。さらに旧2社から引き継いだ泌尿器、移植・免疫分野につぐ第三の分野を作るべくがん領域に集中的に投資を投下、がんに強いベンチャー企業の買収も積極的に展開し、結果に結びつけたのです。

 構造的に強いとされる業界も、あすそのまま強さを保っているとは限りません。そんな中でもどうやってグローバルでの競争を勝ち抜いていくか。会社の「強み」とそれをキープするための取り組み、その結果に注目して研究してみましょう。

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