電力業界が動いています。4月には電力改革の仕上げとなる発送電分離が行われ、電力の小売りの競争が激しくなりました。7月には二酸化炭素(CO₂)をたくさん出す旧式の石炭火力発電所の休廃止を国が促しました。同じ7月には、再生可能エネルギー拡大の切り札と期待される洋上風力発電の促進区域に4カ所が指定され、普及に向けた動きが本格化してきました。東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所が放射能を放出する事故を起こすまでは、電力業界は地域独占の10社が安定した経営をしていました。しかし、事故を契機に脱原発、再エネへのシフト、競争の自由化、脱石炭といった方向に一気に進み始めました。今では10社以外の会社も電力業界にたくさん参入しています。かつてのように一度就職すれば安泰という業界ではなくなりましたが、競争のあるおもしろい業界に変わってきています。
(写真は、千葉県銚子市沖の洋上風力発電所=東電HD提供)
コロナで売り上げ7.4%減
大手電力会社とよばれるのは今でも、北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の10の電力会社です。ただ、発電事業や小売り事業には石油、ガス、製鉄などの大企業からベンチャー企業までたくさんの会社が参入しています。電力会社も新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けていて、2020年4~6月期の売上高は大手10社で前期比7.4%減りました。ただ、経常損益は、沖縄電力以外は黒字を保っています。
発送電分離で競争激化
今年に入ってからの業界の変化は、まず4月に大手電力会社の発電と送電が分離されたことです。電力の小売りはすでに自由化されていましたが、送電部門は大手が持っているため、発電や小売りに新規参入した電力会社は大手と公平に競争できていませんでした。このため、政府は電力システム改革の総仕上げとして送電部門を大手から切り離し、経営幹部も大手との兼務をできなくして、大手から独立した送電会社としました。これによって、電気を小売りする会社の競争は激しくなり、電力小売りをめぐる契約や勧誘のトラブルが多発しています。消費者庁は6月、国に登録している全655の小売電気事業者に対し法令を順守するよう要請しました。
石炭火力に退場促す
脱石炭火力の動きも進んでいます。経済産業省は地球温暖化の原因となる二酸化炭素を多く出す低効率の石炭火力発電所の退場を促しました。今のまま何もしなければ石炭火力への依存度がますます上がり、脱炭素を目指す世界の潮流にさらに乗り遅れる恐れがあるためです。ただ、電源開発、北陸電力、北海道電力、中国電力などは低効率の石炭火力への依存度が高く、しかもこうした古い石炭火力が利益の源泉となっているため、危機感を募らせています。一方で、東京電力など規模の大きい電力会社は火力の主力は液化天然ガスになっているため、脱石炭火力をむしろ歓迎しているようです。
伸びしろ期待できる洋上風力
一方で、政府や電力会社が力を入れているのが洋上風力発電です。7月には再エネ海域利用法に基づき優先的に事業を進める「促進区域」に「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」「長崎県五島市沖」の4カ所が指定されました。洋上風力発電は、地上に比べて巨大な風車を設置することができ、風も強いため、発電効率がよくなります。洋上風力の設備は部品数が1万~2万点と多く、事業規模が数千億円に達する場合があります。建設とともに運転や保守で雇用を生めば、地域活性化にもつながります。2030年までに1000万キロワットを導入すれば、13兆~15兆円の波及効果があるという試算もあります。日本の風力発電は欧州などに比べて遅れていて、2018年度の総発電量に占める風力のシェアは0.7%に過ぎません。しかもほぼすべてが陸上の風力です。このシェアは欧州の主要国に比べると20分の1くらいです。欧州では発電コストの下がり方も大きく、これからの伸びしろが期待できるのが洋上風力なのです。
これまでのやり方は通用しない
電力は社会のインフラです。コロナ禍でテレワークをするにも、猛暑でエアコンに助けられるのも、電力があってのことです。これからますます必要とされるはずです。ただ、これまでのように原発や石炭火力で大量に作った電気を遠くまで送るやり方は通用しなくなっています。環境にやさしい発電方法や電力の地産地消などが求められています。そうした流れに乗りながら、しっかりと利益も出している会社が業界の優良企業だと思います。
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