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2019年08月02日

「かんぽ不正」の背景に日本郵政グループの構造問題

銀行・証券・保険

 かんぽ生命の不適切な保険販売が日本郵政グループ全体を揺るがしています。かんぽ生命から委託を受けて販売する日本郵便の郵便局員らがノルマ達成や手当ほしさにお客さんに不利になるような切り替えをしたり、高齢者をだますようなやり方で契約したりしていました。日本郵政グループは7月31日、記者会見を開き、契約を持つ2000万人の3000万件分に案内状を送り、不利益があったかどうかを顧客に確認すると発表しました。かんぽ生命の株価は上場来安値付近に低迷するなど、グループの経営に大きな影響が出ています。利益至上主義の弊害と言えばそれまでですが、背景には、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社が赤字必至の日本郵便を営業委託で支えるという日本郵政グループの構造問題があります。日本郵便にしてみれば保険などの金融商品を売らなければ、会社存続が難しくなるという切迫感があるはずです。問題の源流は、郵便という公共性のある仕事を民営にしたところにたどりつきます。
(写真は、記者会見で陳謝する日本郵政の長門正貢社長=中央、かんぽ生命の植平光彦社長=右、日本郵便の横山邦男社長=7月31日、東京都千代田区)

日本郵便は販売委託で黒字会社に

 日本郵政グループの持ち株会社は日本郵政です。57%を持つ大株主は国です。日本郵政の子会社として、銀行業務をするゆうちょ銀行、保険業務をするかんぽ生命、郵便業務をする日本郵便の3社があります。日本郵政とゆうちょ銀行とかんぽ生命は上場企業ですが、日本郵便は日本郵政の100%子会社非上場です。

 経常利益が一番大きいのはゆうちょ銀行で、かんぽ生命、日本郵便の順になります。従業員数で言えば、圧倒的に多いのが日本郵便です。約22万人もいて、ゆうちょ銀行の約1万3000人、かんぽ生命の約8000人を大きく引き離しています。日本郵便の収入は郵便物や荷物の配達によるものが中心ですが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命からの計1兆円近い委託販売手数料が売り上げ全体の4分の1になります。これがなければ全国2万4000の郵便局は維持できないでしょう。つまり、郵便物や荷物の配達だけでは赤字になる会社を、銀行と保険の2社が金融商品の販売を委託することで黒字にしているわけです。

マンパワーと信頼

 22万人もの従業員のマンパワーを金融商品の営業にも生かそうということ自体に問題はありません。郵便局と言えば国がバックにあるというイメージはまだ健在で、お客さんの信頼を得やすいというのも有利な側面です。でも、全国津々浦々まで配達しなければならない郵便事業の赤字を埋めるための金融商品の営業となると、マイナスからのスタートですのでそうした有利な側面を使ったとしても利益を大きくするのは簡単ではありません。しかも、超低金利の中で保険商品の売れ行きはどこも芳しくありません。金融のプロばかりではない郵便局員に厳しいノルマが課されたのは、そういう状況があったためだと考えられます。

公共性を持った民営化の矛盾

 日本郵政グループはまだ完全に民間会社になっていません。民間会社になる途上です。特に日本郵便は政府が持ち株を手放す完全な民間会社にはこれからもならないと思われます。小泉政権下で行われた郵政民営化の議論で最大の論点は、民営化して全国津々浦々まで郵便物を配達するサービスを維持できるかどうか、でした。結局、そのサービスを義務づけることになり、郵政は公共性を持った民営化となりました。その矛盾の一端が今回の問題にも表れています。
(写真は、日本郵政の本社=東京都千代田区)

「民の顔」も「官の顔」も持つ不安定さ

 日本郵政グループは、売上高十数兆円、従業員二十数万人に上る巨大グループです。業界で言えば、銀行業界、保険業界、宅配業界などにまたがります。いずれも最近パイの奪い合いで競争が激しくなっている業界です。まだまだ国のバックがついているイメージがありますので、比較的安定していると思いがちですが、民の顔と官の顔の両方を持っている不安定さもあることを知っておきましょう。

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