ネットの辞書に押され部数激減
角川書店が、累計約570万部という漢和辞典『新字源』を今秋、23年ぶりに改訂します。漢和辞典をはじめ紙の辞書は、インターネットの無料辞書に押され、ピーク時(1998年)の280万部から昨年2016年には114万部に減っているそうです。朝日新聞デジタルの記事では「漢字文化をどう支えていくか、模索が続く」と指摘しています。漢字をめぐる出版事情を追ってみました。
(2017年6月22日朝日新聞デジタル)
(写真は、角川書店『新字源』の改定作業で使われた手書きの「親字」の一覧表)
スマホ、パソコンで必要になった改訂
『新字源』は1968年が初版。中高の授業でお世話になった方も多いでしょう。しかし、版は重ねど改訂は1994年に一度されたきりです。この記事では、スマホやパソコンの文字変換機能が充実したことで、①「憂鬱(ゆううつ)」「顰蹙(ひんしゅく)」など、難解文字が気軽に書ける、 ②「あな」という文字でも「穴」「孔」など多様な表現ができる、③パソコン入力で使うJIS漢字にしかない字が生まれた――などの変化を指摘。「・・・伝統的な使い方と今の使い方をすり合わせた改訂が必要になった」と、同辞典の改訂に携わる阿辻哲次・京都大学名誉教授がコメントしています。
辞書作りは手間ひまがかかる
辞書作りは手間ひまのかかる仕事です。『新字源』の改訂作業は10年前にスタートしました。2008年に第6版が出た岩波書店の『広辞苑』も、新版が出るのにやはり10年かかっています。辞書を出している出版社には、10年、20年と辞書部にいて、かかりっきりで改訂作業をしている編集者がいるものです。それだけ労力と資金をつぎこんだだけの利益が出ないのが現状で、改訂を躊躇(ちゅうちょ)する出版社もあります。
(写真は、岩波書店の倉庫に置いてある『広辞苑』の校正ゲラ)
紙にこだわらない辞書作りを
紙は売れなくなりましたが、スマホアプリの辞書は売れているそうです。三省堂は2015年、辞書アプリ『全訳 漢字海 第3版』(税込み3000円)を配信し好調とのことです。角川書店は昭和20(1945)年創業ですが、現在はKADOKAWAとして、出版だけでなく映像やゲームソフトなど幅広く展開しています。同社の松原眞樹社長は、自社の公式サイトのトップメッセージで、「デジタル化された多種多様なコンテンツを、様々なデバイスで手軽に楽しんでいただける環境が一気に整ってきています」と述べています。漢和辞典も紙だけにこだわらず、いろいろな媒体に載せることで採算をとっていくのでしょうか。
『うんこ漢字ドリル』が売れている
漢字辞典は、大もとになるコンテンツをしっかり作っておけば、幼児から高齢者まで世代に合わせてさまざまな商品展開が考えられます。漢字学習の関連商品といえば、すべての例文に「うんこ」を使った小学生向け漢字練習帳『うんこ漢字ドリル』シリーズ(文響社)が大ブーム。累計200万部を突破したそうです。(「うんこ漢字ドリル、ついに200万部『質にこだわった』」2017年6月23日朝日新聞デジタル)
紙の漢和辞典は売れなくても、漢字ブームは子どもたちに及んでいます。就活生のセミナーや新入社員研修で、「御社は書けると思うけど、ヘイシャって書いてみて」と問うと、「幣社」と書く人が結構います。「弊社」の「弊」にへりくだる謙遜の意味があることを知っていれば、こうは書かないはず。スマホやパソコンでしか文字を打たなくなって、漢字の成り立ちに関心が薄れてきたのでしょうか。時には漢字辞書を改めて見直してみてはいかがでしょうか。
(写真は、小学6年生用の『うんこドリル』の例文)