損失額6年間で375億円
富士フイルムホールディングスは、傘下の富士ゼロックスのニュージーランドとオーストラリアの子会社で不適切会計があったとして、富士ゼロックスの会長らを解任すると発表しました。子会社が売上高を過大に計上していたのに、それを隠蔽(いんぺい)したまま決算を続けていたということで、損失額は過去6年間の累計で375億円にも上ります。海外子会社による不適切会計や高値づかみ買収によって損失を計上しなければならなくなる会社が最近目立ちます。国内の市場が縮小するため海外企業の合併や買収(M&A)を焦り、失敗しているのです。とても優良な会社だと思われていたのが、あっという間に苦境に追い込まれることもあります。海外進出に熱心な会社はこうしたリスクもあることを覚えておきましょう。
(2017年6月13日朝日新聞デジタル)
(写真は、記者会見で頭を下げる富士フイルムホールディングスの助野健児社長=右、吉沢勝取締役)
社会だます不適切会計って?
有価証券報告書などの決算書類に事実と異なる数値を載せるのが不適切会計です。決算書類は、投資家や取引先などが会社の内容を判断して、投資や取引を決める指標です。就活生も企業研究の際には決算の数字を見ると思います。ここに虚偽の数値を書くと、社会をだますことになります。最近は海外子会社が舞台にした不適切会計が目立ちます。富士ゼロックスのほかにも、昨年にはリコーのインド子会社、船井電機のアメリカ子会社で不適切な会計が発覚しました。2012年にはOKIのスペイン子会社が不適切な会計をしていました。
高値づかみで損失計上も
海外の会社を買収する際に、実態よりも高い価格で買ってあとで損失を計上する事態に追い込まれるケースも増えています。今年、日本郵政はオーストラリアの物流会社を買収した金額と実際の会社の価値の差が大きくなったとして、3700億円もの損失を計上しました。東芝は、昨年末に発覚したアメリカの原発子会社の収益悪化で7200億円もの損失を計上し、苦境に追い込まれています。2015年にはキリンホールディングスがブラジルのビール子会社の価値が低下したとして1100億円の損失を計上しました。いずれも世間をあっと言わせた買収でしたが、前のめりになりすぎて高値づかみだったと言わざるを得ません。
(写真は、キリンが子会社化していたブラジルのビールブランド。現在はオランダ・ハイネケンの子会社になっています)
管理難しい海外子会社
サントリーホールディングスによるアメリカの蒸留酒大手ビーム社の巨額買収など、うまくいっているケースもありますが、海外の会社を買うのは、国内の会社を買うよりずっとリスクがあります。半年や1年の企業調査では、その会社の社風はなかなか分かりませんし、どういう問題を抱えているかも把握するのは簡単ではありません。しかも、買収後の動向を国内にある親会社がしっかり管理することも難しく、現地まかせになりがちです。それでいて、親会社からの業績へのプレッシャーが強いこともよくあり、現地は実態よりよく見せようという意識も働きます。
(写真は、記者会見で握手を交わすサントリーホールディングスの佐治信忠社長=右とビームサントリーのマット・シャトックCEO=2014年5月16日朝日新聞朝刊に掲載)
落とし穴の見分け方
ヒト、モノ、カネ、情報が国境を超えて自由に行き来するグローバル経済の時代になった、と言われます。しかし、いまだに海外を国内と同一視することはできません。特に日本企業は、言葉や習慣や宗教などの面で欧米企業よりもハードルが高いと思われます。そうはいってもグローバルに展開していかなければじり貧ですので、多くの日本企業が海外展開を進めています。今後も、海外展開の落とし穴にはまって苦しむ企業は出るでしょう。そうした企業を見分けることはできませんが、あまりにも性急に海外企業の買収を進めていたり、あまりにも高額の買収をしたりする会社はより高いリスクを抱えていることは知っておきましょう。