三菱重、大型客船こりごり? 巨額損失で受注凍結を検討
三菱重工業が、大型客船の新たな受注をやめようとしています。最近手がけたドイツ向けの船で2300億円の損失を出したこともあり、リスクが大きすぎると考えているようです。
国内で大型客船を造れるのは三菱重工だけなので、同社がやめると、日本は大きな客船をつくる能力を失うかもしれません。ものづくりへの自信が揺らぐ、ちょっと悲しいニュースです。
(2016年10月9日朝日新聞デジタル)
(写真は、大型客船を造ってきた長崎市の三菱重工長崎造船所です)
造船は三菱重工の「祖業」
三菱重工の客船造りの歴史は、1880年にさかのぼります。まだ江戸時代だった1857年に幕府によって造られた長崎造船所が三菱に払い下げられたのが1877年。その3年後には客船を完成させています。
この造船事業から三菱重工が発展したため、造船は同社の「祖業」とも言われます。ちなみに明治時代の施設の一部は今も残っていて、世界遺産に登録されています。
(写真は1949年、長崎造船所を巡行された昭和天皇と、歓迎する従業員。この写真の船台では戦前、世界最大の戦艦「武蔵」も造られました)
10年近くもブランクがあった
戦後はながく大型客船事業から離れていましたが、1990年に日本郵船向けの「クリスタル・ハーモニー(現飛鳥Ⅱ)」で復活しました。大型客船は高級ホテル並みの内装が求められる難しい仕事ですが、値段が高いのが魅力でした。
しかし、2002年にイギリスから受注した超大型客船で建造中に火災が発生し、またしばらく受注を中断していました。そして10年近くたって、今回多額の損失を出したドイツのアイーダ・クルーズ向けの大型客船2隻を受注しました。金額は1隻1000億円程度とみられています。
(写真は、三菱重工が造った「アイーダ・プリマ」)
ネット環境の整備を求められる
2300億円もの損失は、何度も設計をやり直したり、不審な火災が3度も起きたりして、1年以上引き渡しが遅れたことで生じました。
三菱重工は、受注したときは楽観的な見通しを持っていたようですが、建造していなかったブランクの期間中に、より複雑な技術が求められるようになっていたのです。たとえば、全室でインターネットが使えるような工事などです。こうした技術に不慣れだったことや、船主の求める水準が高くなっていたため、予想をはるかに超える建造費がかかることになりました。
日本のものづくり揺らぐ
三菱重工は以外に、大型客船を造れる造船会社はヨーロッパのいくつかに限られます。三菱重工が撤退すると、日本ではどこも建造できなくなります。
自動車、鉄道、船という交通手段の建造は、日本が得意とする分野です。大型客船だって日本はいいものを安く造るはずだ、と思っていた人は少なくないと思います。それは今の日本の技術競争力を買いかぶっていたのかもしれません。
造船関係では最近、川崎重工業も抜本的に見直しするというニュースがありました。
これらの話題に、「日本のものづくり」が揺らいでいる一端が現れていると考えた方がいいようにも思います。