野菜が冬眠、空気操り輸出(2016年6月6日朝日新聞朝刊)
福岡市の人工島(アイランドシティ)で2月、九州最大の青果市場が開場した。取り引きされた野菜や果物は博多港に運ばれ、CA(Controlled Atmosphere=大気調整)コンテナで香港へ。数日後にスーパーに並ぶ。輸出を担うのは九州農水産物直販。4店舗で始めた香港での販売は16店に拡大、30品目を売る。今秋にはシンガポールにも輸出する予定。人気の理由は品質だけでなく手ごろな価格だ。CAコンテナの船便で運べば運賃は航空便の10分の1程度。葉物野菜も運べるCAコンテナの技術面は空調機器メーカー最大手のダイキン工業が支えた。
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記事によれば、国内で1パック600~700円のイチゴの「あまおう」を香港に航空便で運べば約2000円に。これがCAコンテナの船便なら1000円程度に抑えられるといいます。それまで一部の富裕層向けだった日本の野菜や果物が、中間層にも手が届くようになり、需要が拡大しています。しかし、ここにたどり着くまでには、工夫と努力があったのです。
船便で鮮度を落とさず運べれば大きな市場があるわけで、どうすればそれが可能になるのか。植物も生き物ですから呼吸をします。これが鮮度を落とす原因。CAコンテナは大気の窒素を増やすことで植物を「冬眠状態」にして鮮度を保って輸送します。ただし、バナナやアボカド用の従来のCAコンテナは、より鮮度が落ちやすい葉物野菜やイチゴにはそのままでは使えないことがネックでした。卸売会社の福岡大同青果は、海運大手の日本郵船に相談。この挑戦に技術面から参画したのが、空調機器メーカー最大手のダイキン工業(大阪市)でした。
ふたたび冒頭の記事から。「ダイキンはCAの機能を備えた倉庫を40年前につくっていた。農産物を運ぶコンテナに関する相談が増えてきたため、3年前に研究を再開、ゼオライトいう鉱石に空気中の窒素だけを吸着させ、コンテナ内に窒素だけを送り込んで青果物の呼吸を抑える技術を確立した。その際に使う小型ポンプは医療用酸素ポンプの技術を転用してつくった」。さらに、コンテナ内の湿度を高く保つ必要があり、これには湿度を調整できる主力商品の家庭用エアコン「うるるとさらら」の技術を生かし、空気を冷やしながら湿度を保つ装置を開発したといいます。こうして葉物もイチゴも運べるCAコンテナが出来たのです。
日本の農産物を輸出するためにさまざまな企業が協業し、これまで培った技術を転用し、大きな成果をあげつつあります。日本のモノづくりの底力を見せられたという感じですね。CAコンテナなどの技術がさらに進歩すれば中東や欧州にも日本の農産物を輸出できる可能性がありそうです。多くのメーカーはBtoB(Business to business=企業間取引)で一般の消費者、就活生の目にとまりにくい面がありますが、日本の経済を支えているのがメーカーです。ぜひ、あらゆる分野でオンリーワンやナンバーワンの技術力のあるメーカーに注目してください。