再就職助成金、リストラ誘発も 支給要件厳格化へ(2016年2月22日朝日新聞朝刊)
事業縮小や再編で離職を余儀なくされた人の再就職を支援する国の助成金について、厚生労働省は4月から支給要件を厳格化する方針を固めた。人材会社が、企業にリストラ方法をアドバイスし、助成金が使われる退職者の再就職支援で利益を得るなどしているためだ。労働者を守るためのお金が、リストラを誘発しかねない仕組みになっている
事業縮小や再編で離職を余儀なくされた人の再就職を支援する国の助成金について、厚生労働省は4月から支給要件を厳格化する方針を固めた。人材会社が、企業にリストラ方法をアドバイスし、助成金が使われる退職者の再就職支援で利益を得るなどしているためだ。労働者を守るためのお金が、リストラを誘発しかねない仕組みになっている
朝日新聞が2月22日の朝刊1面で特報(ほかの新聞には載っていないニュースを報じること)したニュースです。仕事の能力が低いローパフォーマー、略して「ローパー」社員を会社から追い出すにあたり、人材会社がノウハウを提供していました。会社はローパー社員を追い出すことができ、人材会社はこのローパー社員の再就職支援を請け負ってお金をもらうことができます。いっけん問題がないように見えますが、記事では「リストラを誘発しかねない仕組み」と指摘し、厚生労働省も是正に乗り出したと報じています。
なぜリストラを誘発するのか、その理由となるのが「労働移動支援助成金」です。会社が従業員を雇えなくなった時、人材会社を通じて再就職を委託すると国から上限60万円の助成金が支払われるというもの。「なんで社員をクビにした会社にお金がいくのか!」と思われるでしょうが、これはアベノミクスにおける「成長戦略」の一環なのです。日本は会社が従業員を守る意識が強く簡単にクビを切れない仕組みとなっていますが、これでは衰退した産業から、急成長し人材が必要な産業にスムーズに労働力を移すことができません。そこで安倍政権は、社員を雇い続ける企業を支援する「雇用調整助成金」を減らしてこの労働移動支援助成金を大幅に増やすことにしたのです。
人材会社にとっては言うまでもなく、ビジネスチャンスですね。ただ、報じられている内容を見ると少々「やりすぎ」の感じもあります。従業員を辞めさせたい会社に「無料コンサルティング」という形でかかわり、「ローパー」社員をリストアップして個別に呼び出し退職を促すというマニュアルを提示していたといいますから、企業の人員削減が助成金を欲しがる人材会社主導によって加速してしまう恐れも十分にありそうです。そもそも助成金の趣旨は成長分野に人がうつりやすくすることで、低パフォーマーのクビを切りやすくすることではありません。誰が低パフォーマーかは会社側が恣意的に判断するわけですから、「俺はローパーになるわけないよ」と思っているみなさんにとっても他人事の話ではありませんよ。
また、国の政策には予算がつきものです。その予算を手に入れるために企業は様々な動きをし、結果こういった雇用にかかわる問題が引き起こされたわけです。単に会社のニュースを追っているだけでは全体の流れは見えてきません。これを機に、1面や総合面に載っている国の政策や予算の記事にも注意を払って読んでみるようにしましょう。
2024/10/14 更新
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