震災で不通路線、バス高速輸送の継続提案 JR東日本(2015年7月25日朝刊)
東日本大震災で被災し一部区間が不通のJR気仙沼線と大船渡線について、JR東日本は7月24日に東京都内で開かれた会議で、鉄道の復旧は難しく仮復旧で導入しているバス高速輸送(BRT)を継続したいと岩手、宮城の両県の沿線自治体に提案した。
会議でJR東日本は、震災前から両線の利用が低迷していることや、復旧費が1100億円に上ることなどから、鉄道の復旧は困難と説明した。
会議でJR東日本は、震災前から両線の利用が低迷していることや、復旧費が1100億円に上ることなどから、鉄道の復旧は困難と説明した。
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東日本大震災から4年半近くが経ちました。ですが原発事故による立ち入り制限地域など、震災前の姿に戻ったとはとても言えない状況がいまだ続いています。鉄道も、その一つです。震災による津波と原発事故の影響で旅客線9路線、計450キロあまりが被災。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の舞台として有名になった三陸鉄道(北リアス線、南リアス線)は2014年4月に全線復旧。仙台と石巻を結ぶ宮城県の基幹輸送路であるJR仙石線も2015年5月に復旧しましたが、まだ復旧していない路線も150キロ以上にのぼります。今回の記事は、そのうち宮城県のJR気仙沼線の一部、岩手県のJR大船渡線の一部について、鉄道による復旧を断念する方向が決まったというニュースです。
この2路線には震災後、鉄道が走っていた路盤を舗装してBRT(バス高速輸送システム)が導入されました。鉄道に比べて運行本数を増やすのが簡単で、両路線とも本数が震災前の1.5~3倍に増え、バス停も増設されました。地元住民からも鉄道復旧を求める声はほとんど聞かれないといいます。大船渡線が走っていた岩手県陸前高田市の戸羽太(とば・ふとし)市長は「鉄道は観光面を考えれば非常に大事だが、現実的に長く存続できる公共交通をつくれるかどうかが一番の課題」とBRT化に理解を示しました。
一方、同じ岩手県のJR山田線(一部区間)は鉄道による復旧が決まりました。ここは三陸鉄道の北リアス線、南リアス線に挟まれた区間になっていて、線路復旧や車両建造はJR東日本が行いますが復旧後の運営は三陸鉄道が譲り受けます。これにより久慈~宮古~釜石~盛(大船渡市)と岩手県三陸沿岸都市が三陸鉄道により1本の鉄道でつながり運行が効率化、観光客も呼び込みやすくなると地元自治体は期待を寄せています。
大船渡線、気仙沼線と何が違ったのか。ひとつは鉄道事業者の情熱でしょう。1984年に当時の国鉄から赤字路線3線を譲り受けて発足した第三セクター会社の三陸鉄道はその後10年間黒字経営を続けるなど地元に密着した鉄道として長く親しまれてきました。近年は赤字経営が続いていましたが、震災直後に望月正彦社長は復旧を決断。わずか5日後に被害の少ない路線で無料運行を再開させ、復旧の象徴として地元住民に感謝されました。山田線を引き受けるにあたり望月社長は「復旧しても、乗ってくれない、では意味がない。人口減社会で生き残れる先進事例となれるよう努力したい」と語っています。
JR東日本も気仙沼線、大船渡線の原状復旧には前向きだったといいます。ですが今後のことを考えた安全強化のためにおよそ700億円が必要で、この負担を国や自治体に求めたが認められず、BRT化を選択せざるを得ませんでした。一企業であるJR東日本や震災にあった自治体にこれだけの巨額の負担を背負わせるのも現実的ではありません。すなわちこの地から鉄道を消したのは、鉄道の存在意義を認めなかった国である、とも言えるのです。望月社長はかつて、こんなことも語っています。
「赤字が負担だと言いますが、では道路って、タダなんですか?と。たとえば岩手県の除雪費用だけでも年間数十億円かかっている。これも税金なんです。鉄道がなくなって栄えた町はない、断言してもいい」
会社としての利益の追求と、幅広い利用客の利便性のどちらを優先するか。鉄道だけでなく電気やガス、郵便といったインフラ企業には避けては通れない課題です。他業種を志望する皆さんにとっても、他人事ではない問題でしょう。そういった観点から、様々なニュースをチェックしていってください。